さっそく自宅にほど近い指定バンクへ。銀行口座を作るのは昭和の末期に就職したとき以来だ。必要なものは免許証くらい。ただし手続きに40分ほどかかるという。
品のいい女性行員の質問に次々に答える。「ご自身、お身内に日本以外の国籍の方は?」なんて問いに素早く首を横に振っていく。「ハンシャとの関わりは……」ときて「ないですよね」と微笑む女性行員。私も頬をあげる。用途も話した。
思いもよらぬことを聞かれて時間もかかるわけだが、なかなか愉快な体験である。なにしろ目的が馬券を買うことなのだ。できあがったカードを渡されたとき、「お好きな馬、いるんですか」と微笑まれた。
HPに戻って当該銀行の入り口から手続きへ。できたばかりの口座番号、暗証番号を入力し、IDを取得。場面がトントンと進むと気持ちもドンドン明るくなる。その日は木曜日だったので馬券販売時間外。でもこれで土日には馬券が買えるのだ! 案ずるより産むが易し。ラクショーだ。オレにもちゃんとできるじゃないの。
ところが。金曜日夕刻に競馬新聞を買い、早起きして迎えた快晴の土曜日。私は何度も頭をかきむしりパソコン画面に怒号を浴びせることになったのである。
●すどう・やすたか 1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年5月8・15日号