パチンコ店の営業再開は相次いでいる(イメージカット)

 この日、千葉県の森田健作知事は松戸、野田の二店舗に休業指示を出した。私は店内にいてこれをスマホで知ったが、いつまで経っても当の店舗も客もどこ吹く風、客はパチンコ台とにらめっこか順番待ち、店員も忙しく客の応対に駆けずり回っていた。

「ゴールデンウィークでも休みなしです。ありがとうございますがんばります」

 かわいらしい女の子の店員に声を掛けてみるとマスク越しにそう言って笑みを返してくれた。現実の人間社会、本当に人それぞれだ。いくら頭の中で悪しきパチ屋の悪魔集団を作ってみても所詮は個々の観念。それに残念ながらこの客の入りと我が故郷ながら土地柄、本部は言うことをきかないだろう。居酒屋もそうだが、客が入り、大儲けできる状態で言うことをきく必要は彼らにはないからだ。現に、同じ千葉県内で再開した店舗も出てきた。憲法上、県も店も、お互いこれが限界だ。また人間の欲望を抑え込むのも限界がある。何を言ったところで日本全国、言うことを聞かない人は聞かない。サーファーも、釣り人も、キャンパーも、バイカーも、大型店舗に全員で押しかけるファミリーも、もちろんパチンカーも。「ならば、今すぐ愚民どもにその叡智を授けてみせろ」なんてセリフもガンダムだかにあったが、それは無理だ。日本が持たん時が来ても、大方は気づかないし自分ごとでは考えない。

 実のところ、首相も知事も、そこまで国民に、社会に本音のところは期待していないのではという気持ちになってくる。彼らが悪いのではなく、このコロナという未知の疫病は現時点で人知を超えている。後からならいくらでも言えるが、私たちは現在進行系でこの疫病の只中にいる。しかし人間それぞれの危機感の温度差は如何ともし難いし、それを政治が解決するのは不可能だろう。個人が試されているともいえるが、強制する術はこの国にない。

 5月4日、緊急事態宣言が延長された。幸いにして34県では自粛要請が緩和され、50人程度の小さなイベントやセミナー、演奏会、茶会や句会などは許され、集団感染とは無関係の劇場や映画館、百貨店、学習塾は対策を徹底した上でなら再開して構わないことになった。関東を中心とした13の「特定警戒都道府県」はまだだが、それでも図書館や公園、ゴルフ場は容認された、少しずつ現状は良くなっているが、対コロナそのものはまだ端緒である。まず直近の根絶はありえないだろう。

 5月5日、写真館には端午の節句の写真を撮る三世代でひしめいていた。スーパー3密だが、予約でいっぱいだという。子ども写真の大手チェーンは全店休業で割りを食った形だ。町の小さな写真館には嬉しい悲鳴だが、子ども写真の大手チェーンは全店休業で割りを食った形だ。このように金か、命かの判断をその個々の人間が個人的に始めなければならないということになる。客を取られまい、潰れたくないと営業休止していた各店舗は開けるだろうし、塾や予備校は授業を再開するところも出てくるだろう。客が来ないなら覚悟を決めるしかないが、来るなら営業したもん勝ちだ。とくにギャンブルや水商売のように依存性の高いとされる業種や固定客の見込める店、個人は金のほうを取る。その金に直結する生活を取る。金に詰まって死ぬか、コロナで死ぬかの天秤が、本格的に突きつけられる日はそう遠くない。いや、すでにゴールデンウィーク明けには大手パチンコチェーンが再開する。大手ゼネコンも家電メーカーも、順次再開する。以前ほどではないにせよ、首都圏の満員電車も戻るだろう。ライブハウスを、居酒屋を、そしてパチンコ屋を叩いたところで、私たち全員に突きつけられている生存選択の決断は、いつまでもごまかすことができないのだから。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ正会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

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