「パチ屋の連中ね、べつに評判気にして生きてるわけじゃないからいいんでない?」

 車中、富田くんの言葉だ。なるほどそうだろう。この国難、社会の危機に協力するのは当然かもしれないが、日本全国、誰もの意識が高いわけがないし、そもそも国家的、社会的に責任ある立場の公人や有名人、専門家のように振る舞う必要がないのも事実だろう。その辺の人の評判なんてせいぜい近所レベルの話、SNSで公人や有名人とつながると、ときには日本を背負って立たなければならないほどの錯覚に陥るが、よく考えれば大方の一般人のリアル人生には直接関係のない話だし、意識の高いマニアの、あくまでSNS村の話だろう。パチンコ屋で聞いても、彼らはそれが本当かどうか知らないが、あまりネットはやらないしニュースも知らない人が多かった。彼らがスマホで眺めているものもネットのはずだが、それに当為の意識はないということか。これもまた、普通の人、である。

◆外に出たい。籠もってられるヤツばかりじゃない

「そうね、コロナになるかどうかって、こんな田舎じゃピンと来ないね」

 パチスロの順番待ちで煙草を吸っていたニッカポッカのおじさんの言葉であり、野田以外の関東のあちこちでも聞いた言葉だ。読者受けとやらには程遠い回答だが、現実のパチンコ屋はパチンコ中毒者が喚き散らし、怒号を上げ、コロナの中でも有り金を擦り続ける姿や私に食って掛かる、暴力を振るう姿が常日頃繰り広げられる光景などなかなかお目にかかれない。そういった姿をご所望な方々が多いのはわかるが、だからといって事実の肌感まで捻じ曲げて報じるつもりも、迎合誇張する気もない。亀有のパチンコ屋も怒号と変なユーチューバーらしき者の煽りなどはあったが、私の実際に居合わせた印象では報道やSNSで伝えられたそれとは程遠く、大部分の時間は粛々と営業しているだけだった。

「とにかくさ、外に出たいんだよ、籠もってられる奴ばっかじゃないのはわかってよ、俺だけじゃないし、本音はみんなそうだろ」

 目的はパチンコじゃないという人もいた。確かに私も野田に戻った矢先、利根運河から理科大キャンパス周辺を歩いてとても気持ちがよかった。春風は心地よく、理科大薬学部近くで前後数百メートル誰もいない状態になったのでマスクを取ってみた。『風の谷のナウシカ』ではないが、やはりマスクなしは気持ちのいいものだ。都心はもはや腐海のようにずっとマスクをしなければならない。マスクなしは犯罪者扱いだ。おじさんは別に悪い人ではないだろう。その辺の田舎のおじさんはこんなものだ。その辺の誰もが、時として悪人となる。戦時中もそうだ、ネットの相互監視もそうだ。これも人間と言えばそれまで、仕方のないことだが、どうしてこんな時代になってしまったのか。このパチンコ屋に限れば、この5月3日のコロナ禍においてもパチンコ屋なりの「日常」であった。みな大人しく黙々と、パチンコに興じている。駅から遠く周囲になにもない典型的なロードサイドホールであることも、興味のない部外者や野次馬を幸いにして寄せ付けていないのだろう。ある意味、隔離施設か。

「まだまだ出るけどほんとにいいのか? 俺にくれんの?」

 富田くんが出まくっているのでまだ帰りたくないという。私は今日のお礼代わりにフィーバー分全部あげると言って先に帰ることにした。16号線から横道に入って少し歩けばコミュニティバスが走っているので、それで私の実家そばまで行ける。パチンコ屋の正面の牛丼屋ではテイクアウトでなく店内でビールを呑んで牛皿をつついている。八王子でも喜多方系のラーメンチェーンで酒盛りをしている四人組のおっさんがいたが、なるほど居酒屋が自粛中なのでラーメン屋で呑んでいるのだろう。道が空いているからかスポーツカーやバイクが気持ちよくぶっ飛ばす。マスクもしないでスマホ片手のお爺ちゃんがヨタヨタ走っている。話しかけるとポケモンGOの最中だという。私はやったことがないのでわからないが、暇つぶしには悪くないのだろう。大きな家の庭では20人くらいが集まってバーベキューを楽しんでいる。野球少年の自転車が列を作って通り過ぎる。彼らはコロナより練習だ。

関連記事

トピックス

荒川静香さん以来、約20年ぶりの金メダルを目指す坂本花織選手(写真/AFLO)
《2026年大予測》ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート 坂本花織選手、“りくりゅう”ペアなど日本の「メダル連発」に期待 浅田真央の動向にも注目
女性セブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
舞台『シッダールタ』での草なぎ。東京・世田谷パブリックシアター(~2025年12月27日)、兵庫県立芸術文化センター(2026年1月10日~1月18日)にて上演(撮影・細野晋司)
《草なぎ剛のタフさとストイックさ》新幹線の車掌に始まり、悟りの境地にたどり着く舞台では立見席も
NEWSポストセブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎・ストーカー殺人》「悔しくて寝られない夜が何度も…」岡崎彩咲陽さんの兄弟が被告の厳罰求める“追悼ライブ”に500人が集結、兄は「俺の自慢の妹だな!愛してる」と涙
NEWSポストセブン
「異物混入」問題のその後は…(時事通信フォト)
《ネズミ混入騒動》「すき家」の現役クルーが打ち明ける新たな“防止策”…冷蔵庫内にも監視カメラを設置に「なんだか疑われているような」
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン