じゃあ単勝100円でどうだ。馬券の根幹、最低基本金額だが……これもダメだった。
よく見れば「合計金額の入力に誤りがある、が出る場合」と注意書きがちゃんと載っている。PCのバージョンなどに問題がある場合、か。ううむ。なるほど、家人の新しいPCではすんなり購入できた(1Rの締切は過ぎてしまった!)。IDを打ち込めば他人のPCやスマホでも購入でき、負け金は私の専用口座から引き落とされるのである。
怪我の功名もあった。自分のPCでずっとグリーンチャンネルを観て、一方のPCで投票できる。そのリズムが便利で小気味良い。
利便性は抜群だが、ブレーキは確実に甘くなる。馬連流しなどは買い目が増えそうだ。キャッシュレス決済では投入金のリアルが薄いのである。
なけなしの紙幣を投票機に吸い込ませる瞬間。「これでダメなら晩メシ抜きだ!」といった悲壮な覚悟。的中時の騎手への感謝。その逆の呪咀。そういった心もようが徐々に薄まりそうで。慣れてしまうと無くなってしまいそうで怖い。
今こそ決断と実行だ。投入金の上限を決める。レースを絞り込む。買い目を決めたら買い足さない。それが裏目に出ても決して後悔しない。損はしても、ニーチェがきっと微笑んでくれる。
●すどう・やすたか 1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年5月22・29日号