休業要請に応じず営業するパチンコ店に客(時事通信フォト)
「日野さんね、パチンコしない人は仕方ないですよ。そりゃいろいろ言ってきます」
4月のあの日、西口さんとは自粛で閑散とした駅前のカフェで会った。もともと背も高く年齢より上に見える人だったが、さらに貫禄がついていた。高級バッグの革艶が凄い、いくらするのやら。時計好きの私にはその時計が超高級ブランドのいわゆる雲上時計だということがわかる。
「関係ない人は仕方ないんです。こちらとしてもお客様でないならスルーするしかありません。打たない人はいくらでも言えますし」
私は西口さんの言葉に「砂漠のインド人は魚を食わぬことを誓う」というゲーテの格言のことを話した。
「そう、それです。自分がしないわけですから、パチンコなんかどうなってもいいでしょう。なんでもそうです、人それぞれ、優先順位は違います」
それ以前に延々と昔のパソゲーの話をしたのもあるが、西口さんは終始リラックスしていた。店舗営業中よりは仕事も少なく、心の余裕もあるのだろう。
「営業するって手もあったんですけど、うちは休みました。別に日本のためとかじゃなく、すぐにほとぼり冷めるだろうと。ゴールデンウィーク明け以降はどうせみんな我慢できないと。それくらいまでならなんとかホールも持つと」
命をとるか経済をとるか、4月の段階では危機的状況が叫ばれた。国外、とくにアメリカやEUの悲劇が伝えられると、自粛の嵐が頂点に達したことは記憶に新しい。匿名で自粛せずに営業を続ける飲食店や小売店、遊興施設などを攻撃する自粛警察と呼ばれる人々がネットにもリアルにも跋扈した。
「だから気にしてないんです。遊協(※パチンコホールが加盟する遊技協同組合のこと。都道府県を中心とした地域ごとにあり、全国のパチンコホール組合の協同組合連合会を束ねる全国組織もある)だって無理強いはできないし、非加盟店はなおさら、強制的に営業をやめさせたら憲法違反ですからね」
淡々と語る西口さんの姿は高校時代、アドベンチャーゲームの解法を語る当時の彼に戻っていたような気がした、彼は県下でも有数の名門高校にいた。
「日本は韓国と違い新型コロナウイルスの対応に失敗したんだから。その不満のはけ口が私たちに来るのは当然です。どういう風に見られているかはわかってます。でも、私たちは私たちのお客様の打ちたい思いに応えるだけです。エンタメはそれでいいんです。私たちは負けませんよ」
