自粛中でも営業するパチンコホールへの非難の声があふれた4月、パチンコ店はもちろん、遊びに来店する客も非難された。とくにネットが中心だったが、西口さんは「はいはいそれね」という感じで笑った。
「ネットはねえ、ネットはいつものことですよ。コロナに始まった話じゃない。どうせ直接言っては来ませんし、大丈夫です。私たちのエンタメと、それを支持する方々、お客様がいればいい。ごく一部の店の揉め事を大げさに伝えても、お客は離れません」
不要不急のエンタメ産業とは本来そのようなものだろう。ただ今回のコロナは死に繋がる可能性がある感染、疫病だ。しかしパチンコに限らず、コンセプトカフェはたくさんのメイドさんが客引きを続け、立ち飲み屋は固定客でどんちゃん騒ぎ、庭で30人超の大バーベキュー大会という光景を実際に見てきた私にしてみたら、命の価値も不要不急の定義も人それぞれだ。私の見た光景は少々極端だが、現実に存在したのは事実だ。サーファーしかり、キャンパーしかり、バイカーしかり、潮干狩りファミリーしかり、お値段以上なお店のテーマパーク化しかり。
「日野さん、私たちは勝ちますよ」
西口さんは笑っていたが、目は鋭かった。やはり内心、叩かれていることを面白くは思っていないのだろう。さっきから口にする「私たち」は日本人のことか、パチンコのことか、「勝ちます」がコロナに対してか、いわゆる自粛警察に対してか。
「まあまあ、その辺は私個人の感情の問題ですから」
その時はやんわりはぐらかされたが――。
「言ったとおりでしょ日野さん、私たちの勝ちですよ」
そして今日、電話口で、この冒頭の言葉を聞かされた。真意は明白だ。パチンコ業界にとっての日常は戻りつつある。潰れもしなければ業界滅亡もなかった。実に挑戦的だが、西口さんは会社の幹部だが別に公人でもなく会社も売上は大きいが規模そのものは小さい、パチンコ産業全体で言ったら田舎の中小企業だ。とくに業界を代表して言ったわけでもないし、そんな市井の一個人の感情は責められないが、違和感は残る。
「勝ちですよ、もう各県自粛解除してますし、都内だって大手もやってる。みなさんコロナで死ぬより仕事がなくなるほうが嫌なんです」