確かに、コロナで死ぬ人より失業や貧困で行き詰まる人のほうがあまりに多すぎる。たった1ヶ月の自粛でこれだけの経済禍を生むとは、コロナ禍も怖いが経済禍は本当に恐ろしい。そして多くの経営者、労働者の生活が実のところ自転車操業であることを目の当たりにした。日々漕いでいないとすぐ経済的に死ぬ状態の人がこんなに日本にいたなんて!

「もう各店舗とも、たくさんのお客様に楽しんでいただいております」

 電話口の西口さんの声は、営業口調な経営幹部に戻っていた。実はこのルポはゴールデンウィーク明けに会ってもう一度お話を聞く予定だったが、連絡がつかず空振りに終わってしまった。本当はもっと突っ込んだ話をと思っていたが、通常営業に戻れば余計なことを言うこともないのだろう。西口さんも忙しい日々に戻ったということか。

 ただその本心、「勝ち」の言葉を抑えられなかったところに、西口の本音を垣間見た気がする。ここはあえてさんはつけない。あれは隠れキリシタン状態だったオタク集団にいた西口の感情だ。私だってクールジャパンだeスポーツだのもてはやされるたび、古参オタク業界人としてあのころ理解しなかった連中に対する勝ちの感情はある。大人しく自粛に従いしれっと再開。西口、してやったりだろう。

 ともあれパチンコ店に限らず、大手百貨店も映画館も、居酒屋も一部は営業を再開し始めた。これが現実社会だ。この日、13日は特定警戒都道府県の茨城、石川、岐阜、愛知、福岡を含む39県を対象に緊急事態宣言を解除する方針とも報じられた。コロナはまだまったく予断を許さない状況だが、経済活動は始まりつつある。コロナで死ぬより経済的に死ぬのが怖いのだ。このまま、インフルエンザのようなはやり病のように気をつけていればなんとかなる病気として、コロナが風化してくれればいいのだが、その見通しに私は懐疑的だ。もし楽観的な予測どおりにいかなくても、西口さんたちは、経済をとるのだろうし、それを非難できる身でもないし、止めるすべもこの国にはないのだが――。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。近刊『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。

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