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40代現役派遣介護職員が明かす「コロナ禍の介護現場」の実態

どんなときも介護は続く(イメージ、時事通信フォト)

どんなときも介護は続く(イメージカット=時事通信フォト)

 新型コロナウイルスの感染拡大への警鐘が叫ばれ始めたころ、高齢者ほど発症しやすく死亡率が高いことから、若い世代との分断への危惧についてよく論じられた。最近、世間が注目する分断は「自粛警察」などへと興味が移っているが、高齢者やその介護を仕事とする人を排除しようという雰囲気は消えていない。仕事や人生がいまひとつうまくいかないと鬱屈する団塊ジュニアやポスト団塊ジュニアを「しくじり世代」と名付けた『ルポ 京アニを燃やした男』著者の日野百草氏が、今回は、派遣で介護士として働く40代女性の決意についてレポートする。

 * * *
「私は派遣ですけど、常勤の人は大変です。違法な残業という次元を超えてます」

 介護派遣で西多摩地区の有料老人ホームで働く白石まゆみさん(40代女性・仮名)とは八王子駅南口の喫茶店チェーンで待ち合わせた。介護士という激務に追われるなかでもおしゃれを忘れない白石さん、小柄で年齢よりずっと若く、私と仕事をしていたころと変わらない。実は彼女、2000年代にオタク関連の商業誌で何年かイラストを描いていた。いまも同人活動は細々と続けているが、本業は介護士で両親と暮らしている。私の編集長時代、白石さんとはオタク話ばかりだったがこんな真面目な話をする時が来ようとは思わなかった。

「コロナでさらに介護現場は崩壊してます。とにかく人がいない。訪問介護なんか回りきれないくらいと聞いてます。とくにパートに頼ってる生活援助系は大変でしょう」

 介護士の人手不足などはいまに始まったことではないが、コロナの影響でさらに減ったそうだ。訪問介護はあちこちの家を回り、簡単な身の回りの世話をする。買い物や掃除、洗濯、食事の支度など、家事全般を代行する形だ。

「お年寄り、とくに女性の一人暮らしだとペットボトルや瓶の開封も難しいんです。脳梗塞とかで少し障害の残る方ならなおさら、だから一度あけて緩めておいてあげたり、包丁とか菜箸とかも取りやすくぶら下げたり、とても気を使います」

 もちろん白石さんはこうした訪問介護の経験もある。以前はさまざまな施設、福祉サービス会社を転々とした。現在は施設の派遣介護職員だ。

「派遣のイメージって悪いですけど、介護に関してだけは違うんです。常勤でバリバリやりたい方や福祉に命をかけるほどの方は別ですが、変な言い方ですけど責任もそれほどでもありませんし、残業もありません。細々とした雑務もなく、決められた時間内で現場の仕事に集中できます。常に派遣会社が間に入ってくれますし」

 派遣とつくとろくな印象がないかもしれないが、私も白石さんに同感で、福祉の仕事に関して言えばライフスタイル次第だが派遣はありだ。派遣会社に当たり外れはあるが、介護職でもっともつらい奴隷のような残業と理不尽な雑務、そして責任から開放される。「ありがとう」の言葉と「尊い福祉の仕事」の名の下、やりがい搾取に遭ってきた介護職、しかしそれが派遣になると派遣会社のほうが、介護士のほうが強気に出られるのだ。一般的な派遣は「誰でもいい」「代わりはいくらでもいる」人を扱う仕事として、どうしてもクライアントに強く出られない。つまり派遣登録者、派遣社員に我慢しろ、嫌なら来なくていいができる面があるが、福祉に関しては超売り手市場なので派遣会社も対等に出るとこ出られる。福祉職のストレスは下の世話やら日常業務などではない、人命に対する過度の責任、時間外労働という、福祉の名の下にまかり通るパワハラだ。もっとも、いずれにせよ賃金は安い。労働環境がブラックなのは変わりはないが、それはもう日本の福祉行政の構造的な欠陥の話となる。

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