国際情報

中国・武漢で「第2波」をめぐるデマが拡散された背景

5月15日、中国湖北省武漢市の通りで行われた新型コロナウイルスの検査(AFP=時事)

 日本で報じられる中国にまつわる情報にはある種のバイアスがかけられている場合が少なくないという。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。

 * * *
 封鎖解除から1か月。5月9日には武漢で新たな感染者(1人)が見つかり、「すわ、第2波の始まりか!」と世界中が神経質に反応した。しかし当の中国はそれほど慌てている様子はない。というのもこれは、封鎖が解除されたことで人々の気が緩み、繁華街など人が密集する場所でクラスターが起きた、といった話ではないからだ。

 新規感染者とされる高さんは89歳。春節からずっと外出はしていなかったという。ただ3月17日には発熱と寒気を訴えていて、薬を飲んで自宅で休んでいたと伝えられている。投薬の結果、およそ10日後に体調は回復したということで病院に行くこともなかった。しかし、4月15日から今度は食欲不振やだるさなどの症状が表れたため、あらためて新型コロナウイルスの感染を疑い、5月6日に病院へ行きPCR検査を受けたところ翌日に陽性が確認されたのである。同居する妻と娘にも同検査が行われ、妻には陽性反応が出たが娘は陰性。その他、同じマンションから計6人の新規感染者が見つかったのだった。

 繰り返しになるが、この件で中国が慌てた様子はなかった。高さんはもちろん、家族の全ての行動をさかのぼって把握することができていたからで、その点は韓国のケースのように接触者2000人と連絡が取れないといった問題は抱えていなかったからである。

 ただ、問題を拡大しようとする者はどこにでもいるものだ。案の定、「武漢の三民小区で新たに13人が発症、鐘南山がすでに武漢入りか?」というネットの書き込みが人々の間を駆け巡った。

 続いて、新規感染者の高さんは「小区で頻繁にゴミをあさっていたことが感染の原因」という書き込みが話題となり、さらに小区の全員の健康コードが、すべて赤に変わった──健康を示す色は青──というデマまでネットで拡散された。

 もちろん、いずれも根拠のない情報だ。すでに武漢市の公式メディアてデマであることが呼びかけられている。

 それにしてもこれほどネットの言論が不自由で、もしこんな発信をすればかならず取り締まりの手が及ぶと解っているのに、なぜこんなデマが湧き出してくるのか。これこそが中国という国の不可解さであり、日本人が日本の感覚で中国を分析することに限界を感じさせるエピソードなのだ。

関連記事

トピックス

(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
列車の冷房送風口下は取り合い(写真提供/イメージマート)
《クーラーの温度設定で意見が真っ二つ》電車内で「寒暖差で体調崩すので弱冷房車」派がいる一方で、”送風口下の取り合い”を続ける汗かき男性は「なぜ”強冷房車”がないのか」と求める
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
「舌出し失神KO勝ち」から42年後の真実(撮影=木村盛綱/AFLO)
【追悼ハルク・ホーガン】無名のミュージシャンが「プロレスラーになりたい」と長州力を訪問 最大の転機となったアントニオ猪木との出会い
週刊ポスト
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト