平松政次氏といえば「カミソリシュート」
「巨人で投げるのが夢だったから、ファン投票より川上(哲治)監督に監督推薦で選ばれたことのほうが嬉しかった。監督は試合前に全員を集めて“セ・リーグの代表で出ているんだから、恥ずかしい試合だけはやらないでおこう”とみんなを引き締めていました。
ONをバックに投げられた感激は今も忘れませんよ。前年は25勝して最多勝のタイトルも取っていたし、オールスターも3度目でしたが、それでもONを前に緊張していたのか、ファーストの王さんに悪送球してしまった(笑い)」
その平松からピッチャー強襲の先制タイムリーを放ったのが、加藤秀司(阪急)である。加藤は1戦目で、9人目の打者として江夏に9者連続奪三振記録を献上してしまったが、この日の活躍でホームランを打った張本を差し置いてMVPを手にした。
「張さんは怒ったやろね。あの頃はベンチの真ん中にノムさん(野村克也・南海)とか張さんとかが座っていた。座るなとは言われなかったが、そういう空気が漂っていた。初出場で遠慮もあったが、1戦目に代打で出されたときはなんで江夏は左ピッチャーなのに左バッターのボクが打ちにいかなアカンねんと思ったけどね」
加藤らの活躍で3点リードのパに対し、反転攻勢に回ったセは4回、2番手の山田(久志・阪急)から長嶋が面目躍如の2ランを放つ。長嶋の勇姿に、浩宮さまの興奮する様子が当時の新聞に残っている。
〈長嶋が座席に立つたびに「がんばれ」と声援、本塁打が出た四回には「いいぞ長嶋」といって大喜び。五回を終ったところで休けいの予定を江夏登板で急きょ変更し、そのままご観戦するなど大変な熱の入れよう〉(朝日新聞1971年7月21日付)
※週刊ポスト2020年6月5日号