「盛り上がっている市場に加わって、半年か一年そこらで撤退するのがパターン。タピオカ屋も都内と名古屋で数店やって、売れなくなると責任を全部、現場の経営者に押し付けて逃げる。不動産屋には、経営者が悪いの一点張り。単に紹介しただけで責任はないと言い張る。かと思えば、次のネタ(商売)の話を持ちかける。私も2月ごろ、Xからレモネードの話を持ちかけられましたよ(笑)」(西川さん)
前出・冨田さんの元からXはすでに去り、残ったのは経営者の未払い家賃だけ。経営者もXに騙されたと家賃を支払う気が無い。確かにXはコンサルタントにすぎず、冨田さんと賃貸契約していたわけではないのだろう。だから、家賃について支払い義務は生じない。冨田さんも被害を訴えているが、借り手が見つからない狭小物件を借りてくれるならと審査が甘くなっていたのではないか。詰めが甘い者どうしでビジネスをした結果、いつまで経っても家賃が払われない泥沼状態は続いている。
確かにタピオカ屋がうまくいかなかったことで生じる責任すべてがXにあるわけではないのだろうが、それでもプロモーションでアテを外させたのだから、さぞかし評判を落としたはず。ところが、今はたくましく「レモネード」ビジネスの有望性を売り歩いていると言う。西川さんは、不誠実な人が加わったら、レモネードもタピオカのようにブームに急ブレーキがかかるだろうと言う。
「タピオカだって、ちゃんとしている店が、ブームに押されて出てきた粗雑な店に食われた感はありますよ。レモネードも、無農薬レモンにこだわって、シロップ手作りして、容器にもこだわってる店がすでにあるのに、Xみたいに不真面目な奴が出てきてさ……。どうせ業務用のレモンシロップに炭酸水入れて、またボロい変な商売するから、レモネードの印象まで悪くなる。ブームだってすぐ終わるよ」(西川さん)
筆者はこのX氏に事情を聞くべく電話をしたが「人の商売に口出しするな」と言われ、取りつく島もなかった。
ブームとは、色々な人の目を眩ますものだ。大人気のうちに波に乗らねばと焦るあまり、普段なら丁寧に確認することを怠る。タピオカブームがあれほど凄まじい勢いでなければ、借り手が見つからず持て余していた狭小物件を借りたいと申し出られたとしても、通常時の冷静さがあれば、彼らが言うビジネスは成功するかどうかを落ち着いて見極めたことだろう。賃貸契約の条件だって、もっと違うものを提案していたかもしれない。そして今は、コロナ禍によって冷静さを失っている人が少なくない。「本物」を見抜く力は、常に試されている。