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盛況セレクトセール 大物馬主は「堅実な実績」に賭けた印象

セレクトセール最高額をつけたシーヴの2019(写真:Japan Racing Horse Association)

 購買者の同伴は1名、メディアも1社1名で撮影は禁止(写真は主催者提供)。もちろん入場時には手指の消毒にサーモグラフィーでチェックという厳戒態勢下で行なわれた今年のセレクトセールだったが、セリ自体の熱気は例年通り。2日間の落札総額は187億円を超え、昨年よりダウンしたものの史上2位。競馬はここでも新型コロナに負けなかった。競馬ライターの東田和美氏がレポートする。

 * * *
 1日目の1歳市場はまさに「ありがとうディープインパクト」セール。1歳での落札額では史上1位の5億1000万円と2位の4億円。1億7000万円で締めたキングカメハメハ産駒とともに有終の美を飾った。セレクトセールではともに7000万円台で落札された馬が、競走馬として文句ない実績を残したばかりか、種牡馬として世界有数のセリに成長していく過程に大きく貢献した。

 セレクトセールで1億円の以上の値を付けた3歳以上のディープ産駒は100頭近くいるが、獲得賞金が落札額を上回ったのは数頭。月々の預託料を考えれば、ほとんどが落札時の期待を裏切っている。しかしサトノダイヤモンドのように2億3000万円で手に入れた馬が8億6000万円を稼ぐという「ギャンブル」も醍醐味。それを体現していたのがセレクトセールだ。

 ディープインパクトが初めて上場された2008年の当歳市場での最高価格はビワハイジとの間に生まれた「トーセンレ―ヴ」の2億2000万円。エプソムCを勝つなど2億円以上は稼いだが、ブエナビスタの半弟としては、物足りないと言われてもしょうがなかった。

 しかしこの年は6歳にしてマイルCSを勝ち5億円近い賞金を稼いだダノンシャークが3000万円、新潟の重賞を3勝したパッションダンスでも9000万円で落札されている。その後もしばらくおとなしいセリ結果が多く、ディープ産駒として初のダービー馬となったディープブリランテも3100万円、重賞未勝利ながら3億円以上を稼いだフィエロは4000万円。また牝馬はあまりセリが盛り上がらず、ラキシスは3000万円、デニムアンドルビーも3900万円でハンマーが落ちている。その後もミッキーアイル7600万円、サトノノブレス7600万円と、今考えれば高値連発が当然というわけでもなく、2009年、2010年だけでなく、2011年の桜花賞をマルセリーナが勝った後の当歳馬市場でも最高落札価格ではなかったのだ。

 さて問題は2日目の当歳市場。「さよならディープインパクト」セールだ。

 この日の終了後、吉田照哉氏が口にした「どの種牡馬の子が走るのかは誰にもわからない」という言葉は、馬券ファンも受け止めておきたい。新馬戦でディープインパクト産駒が出てくると、調教時計が足りなくても人気を集めたし、他に好調教の馬がいたときでも3、4番人気あたりであっさり勝ってしまうこともあり、そのたびに「やっぱりディープだな」と納得していた。重賞の馬柱にその名前がなければ物足りなさを感じていたし、クラシックでは、何頭出てくるのかが興味の対象だった。2年後の2歳戦、3年後の3歳戦からは、そんな“軸馬”がいなくなりますよ、というわけだ。

 その代わりに新しい時代への期待を担う種牡馬が出てくるのか。2日目の興味はそこにあったが、長年の実績があるハーツクライ産駒が落札価格のトップ3を占めた。ディープインパクト以外ではロードカナロアがトップ、新種牡馬ドレフォンに2億5000万円の値がついた昨年とは様相が異なる。閉塞の時代だからというわけではないだろうが、トップオーナーたちは「未知の魅力」よりも「堅実な実績」に賭けた印象で、上場2年目のキタサンブラック産駒への評価が目立った程度。サトノダイヤモンドとリアルスティールはともかく、レッドファルクスやサトノクラウンというJRA活躍馬、マインドユアビスケッツ、デクラレーションオブウォーといった輸入種牡馬への熱はいま一つという印象だ。

 購買価格が1億円を超えた上場馬は11頭。昨年の1億円越え20頭のうち、ディープインパクト産駒とキングカメハメハ産駒が8頭だったので、ほぼその分少なくなったということで、総額が減少したのは想定内だろう。

 オーナーや競馬関係者以外でセレクトセールを注視しているのは、セリそのもののスリリングな面白さに魅入られているか、「いい馬」のイメージを把握したいからか。あるいは来年募集される1歳馬の相場を掴んでおきたいクラブ会員や、2年後の“ドラフト会議”に生かしたいと思っているPOGファンだろう。

 周知のように、セレクトセールで高値を付けた馬が走らなかった例はゴマンとあるが、今年のクラシック戦線では実はけっこう頑張った。

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