リツイートはリツイートした人の「表現行為」
リツイートによる名誉毀損の賠償請求額の平均は10万~20万円程度と高くないが、名誉を守るために訴える人は増えている印象だ。実際、リツイートが罪に問われた例は過去にいくつもある。
2014年12月の東京地裁判決では、「ポスター破りに唾かけ、車破壊、名誉毀損、業務妨害、証拠隠滅・犯人隠避、ストーカー、強姦、強制猥褻、不正アクセス、詐欺、恐喝、集団暴行、飲酒運転etc…お前らはこんだけやらかしてるんだから、無傷でいられるわけないでしょ」というツイートに対するリツイートが問題となった。
裁判所は元ツイートが名誉毀損に当たるとした上で、リツイートについて「ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言と同様に扱われるものであり、リツイートした人の発言行為とみるべき」と判断したのだ。
今年6月には、性暴力被害を訴えたジャーナリストの伊藤詩織氏が、事実と異なる自身を中傷するイラストを投稿した漫画家はすみとしこ氏と、同投稿をリツイートした男性2人に損害賠償を求める訴えを起こした。「リツイートした男性らの法的責任は、元ツイートをした漫画家と変わらない」という主張だ。
ご紹介した以外にも、リツイートが名誉毀損に当たると訴えられたり、判決が出た判例はある。リツイートした側が責任をとられる判決は報道されるので目立つが、現実には、その事例によって責任は問われないこともある。つまり、リツイートだから大丈夫、リツイートだから法的責任があるといった一律の判断はないと考えるべきで、リツイートは元ツイートと同じ主張をしたとみなされる表現行為であり、罪に問われる可能性があると考えるべきなのだ。なお、相手からわかりづらくするなどの理由でスクショなどで誹謗中傷してもやはり罪に問われるのは同じなので、注意してほしい。
でも、実名でツイッターをしていないし、プロフィールも伏せている。フォロワーも少ないから炎上もしないと考えて、気軽に乱暴な発信をすると、ある日突然、自宅に訴状が届くこともある。ネット上の加害者を特定したいときに利用する発信者情報開示請求で、従来の開示対象だった発信者の住所と氏名に加え、近々、電話番号が追加される見込みだ。これまで、SNS事業者は登録者の住所と氏名を把握していないことが多く、発信者を特定するのに時間がかかりすぎるため結果として責任を追及できないことも多かった。しかし電話番号は多くのSNS事業者が登録必須にしていることもあり、発信者にたどりつく時間が大幅に短くなる見込みだ。
名誉毀損罪とは公然と事実を指摘して人の社会的評価を低下させた場合に該当するため、たとえフォロワーが少なくてもSNSに投稿した時点で該当するとみなされる可能性がある。また、リツイートにより問われる可能性があるのは、名誉毀損罪だけではない。元ツイートの内容によっては、信用毀損罪や侮辱罪などに当たることもあるだろう。
もっとも、前述の岩上氏のリツイートによる名誉毀損を認めた判決内容は、リツイートのみならずSNS全般への理解がなさすぎる判決だとして批判も多く、これが標準的な判断になるというものでもない。だが現実には、リツイートによる罪を問われるケースは増加していると言わざるを得ない。リツイートする側は気軽にした行為でも、リツイートされた側としてはフォロワーの数だけ悪評をばらまかれたことと同じだ。さらにツイッターの場合、フォローしていない人にもその内容が見えるので、実際にはフォロワー数よりも多くの人の目にさらされる。行為自体は手軽でも、導き出される結果は重大だ。SNSは楽しく便利なものだが、使い方によっては他人を傷つける可能性があること、罪に問われる可能性があることを知り、配慮して使っていくべきだろう。