「最初に競技用義足をつけて走ったときは、足とソケットが触れ合う部分がこすれたり、部分的に力が強くかかる箇所があったりして痛かったですね。最初は身体的にも、心肺機能的にもめちゃくちゃきつかったです。義足をつけてのトレーニングはものすごく疲れるんです。そうして5年やっても今でも転びますよ。転ばない選手はいないんじゃないですか。転ぶのが怖くて無意識にスピードを緩めてしまったり、転ばないための余計な動作が入ってしまったりもする。そういうのをなくすためのトレーニングも必要です」(小須田選手)

 義足のアスリートたちは、まずまともに走ることからはじめて、足の痛みや常に転ぶ恐怖とも戦っているのだ。沖野さんもこういう。

「一般の人がイメージするならスノーボードの世界に近い。ただ滑るだけなら1日でできるようになるけれど、一流選手になっても転ぶときは転びます。走っている最中にいきなり足を払われる感じ。競技場のトラックといえどもそれなりに硬いから怖いと思いますよ。学校の土のグラウンドならなおさらです」

 パラアスリートたちにはあまり知られていない彼らなりの困難があり、それを克服したものだけが競技場のスタートラインに立てるのだ。

 ただ、それはアスリートひとりの孤独な戦いではない。ソケットと足が触れる部分に痛みが出ないようにしたり、膝継手の角度を調節したりするのは義肢装具士の仕事。アスリートと義肢装具士は常にコミュニケーションを取り、最高のパフォーマンスが出せるように二人三脚で取り組んでいく。義肢装具士もまたパラスポーツを支える主人公の一人なのだ。

 パラスポーツをアスリートと義肢装具士との共同作業と見れば、来年のパラリンピックはもっと違った楽しみ方ができるかもしれない。

義肢装具士の沖野敦郎氏

●取材・文/岸川貴文(フリーライター)

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