新型コロナに絡めてブロックチェーンを使ったサービスが相次ぎ登場したのは、習近平国家主席が2019年10月にブロックチェーンを次世代の基幹技術と位置づけ、技術開発や産業振興を推進すると宣言したことが伏線になっている。同年6月にFacebookがデジタル通貨「Libra(リブラ)」計画を発表すると、中国の中央銀行である中国人民銀行はすぐさま反応し、法定デジタル通貨(デジタル人民元)の開発を進めていることを明かした。2020年中の発行が有力視されるデジタル人民元は、同年4月、蘇州市など4都市で実証実験が始まり、この分野でも米中の覇権争いが激化している。
それまではテクノロジー・金融業界の中での注目技術に過ぎなかったブロックチェーンは、習近平主席の「ブロックチェーン強国」宣言によって、中国で2019年の流行語トップ10に入るほどメジャーな存在になった。2019年後半から新規参入や投資も活発化しており、今回の新型コロナで、関係者が腕試しとばかりにあらゆるサービスに導入を試みたのだった。
ただし、中国では注目分野であればあるほど、大小さまざまな企業が殺到し、激しい淘汰とカオスが発生しがちだ。調査会社のIPRIは「2月は新型コロナ対策を目的としたブロックチェーン技術の応用が中国で多数登場したが、多くの企業が似たようなサービスを展開しており、社会にどの程度定着するかはまだ判断できない」と指摘した。
一方、ファーウェイの張小軍氏は「警察や交通機関、住民組織などがデータを共有することで、非常事態でもより迅速かつ大規模に対応ができ、感染拡大の抑止につながる」とのアイデアを披露しつつ、「今回の新型コロナに対する取り組みは、ブロックチェーン産業の発展を加速させる契機になる」と述べた。今後の競争が激しいものになるにせよ、関係者が大きな機会ととらえていることは間違いない。
◆浦上早苗著『新型コロナVS中国14億人』より抜粋。