志良堂さんはあらゆる人から手帳をゆずり受け、保管している

 おそらくこれは、自らの日記を読み返しているのだと思います。たんに思っているだけでなく、そのときの感情を書いて、その後読み返すという行為は、自分自身に強く作用しているのだと思います」

 児童文学作家で『バッテリー』などの作品で知られるあさのあつこさんは、中学生の頃に日記をつけ始めた。それは通常の日記ではなく、思春期特有のほとばしる妄想をしたためた「フィクション・ダイアリー」だった。

「中学生の頃は、成績や受験、同性の友達や異性のことなどでがんじがらめになるから、現実から少し離れて、ふっと一息つきたかったんです。

 だから日記では現実をそのまま書くのではなく、もし架空の私がいたら…頭がよくてきれいで運動もできて優しいスーパー中学生がいたら、どんなことを経験するだろう、という内容を書いていました。

 めずらしい蝶々を追いかけて、田舎の街にやってきた大学の昆虫学者と高校生の私が恋に落ちるストーリーを覚えています。いまになっては相当恥ずかしいのですが(苦笑)」(あさのさん)

 現実とフィクションを交えた日記は、少女時代のあさのさんに大きな夢を与えた。

「現実と少しずれた日記を書くことで、新しい世界を作れることがわかって、すごく楽しかったですね。私は自分に自信があったわけではないので、もっと素敵な人間になりたい、きれいな女の子になりたいという欲望が、フィクションを書くことで叶えられることを学びました。その快感を覚えてもの書きになりたくなって、高校に入ってからは完全なフィクションを書くようになりました」(あさのさん)

 妄想日記をきっかけに夢を抱いたあさのさんは、初志貫徹して作家デビューした。

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