「千駄ヶ谷の受け師」の異名を取る木村一基九段(時事通信フォト)
将棋界は20代半ばから30代が全盛期と言われる。記憶力、読みの深さ、スピード、体力、といった能力は加齢とともに衰えていく。一方で経験値に基づく「大局観」はベテランならではの財産だ。
近年は将棋AI研究で力を付けた若手世代の台頭で、ベテラン勢はこのところタイトルから遠ざかっていたが、昨年の王位戦で「千駄ヶ谷の受け師」木村九段が、豊島竜王(当時の王位)を死闘の末に破り、悲願のタイトルを獲得し、一躍「中年の星」として喝采を浴びた。
それから1年。木村前王位は異次元の強さを誇る藤井相手に失冠したが、それでも王将戦の挑戦者リーグ入りを果たし、意地を見せつけた。
10代の藤井二冠をはじめ、20代、30代の強豪棋士を相手に、40代から50代に手が届こうとするベテラン勢がどんな戦いを繰り広げるのか。
歴代の年長タイトル獲得者は、1980年に56歳11か月で加藤一二三王将(当時)から4勝2敗でタイトルを奪取した大山康晴15世名人。69歳で亡くなるまでA級に在籍し続けた大山15世名人は、1990年には66歳11か月で棋王戦でタイトル奪取に挑んだが、さすがにこれはかなわなかった。米長永世棋聖は1993年に49歳11か月で名人位を獲得している。羽生、丸山両九段のどちらかが50歳で竜王位を奪取すれば、歴代の年長記録に名を残すことになる。
新たな「4強時代」を打ち崩し、迫りくる「藤井時代」に待ったをかけられるのか。羽生、丸山、木村、久保、この4人のベテラン・タイトル経験者たちの奮闘に大いに期待したい。
