その後、容子さんが夫を思って日記に書き残した詩『七日間』が朝日新聞で紹介され、多くの共感と涙を誘った。

 妻の死から2年半あまり、英司さんは、日記を開くことがまだできないという。

 それでも、妻と交わした日記がそこにあり、いつでも読むことができる。その事実が、英司さんの人生を支え続ける。

「じっくり考えて、自分が感じたことや思いを伝えられたことは本当によかった。本人を前にしてなかなか口で言えないことも、日記なら書くことができました。この先、いつでもあの日記さえ開けば、そこに容子との思い出があり、いつも以上に妻を身近に感じられることは、私にとってすごく大きなことです。交換日記をやって本当によかった」(英司さん)

 書いた人が思いもよらないところで、日記はその力を発揮する。一般人の日記や手帳を買い取り、収集・展示を行う手帳類収集家の志良堂正史さんが日記から読み取るのは、ひとりの人間の底知れなさと人生の味わい深さだ。志良堂さんは、こう話す。

「6年以上、日記を書き続けたパチンコ依存症のかたがいました。その人は『今日は5万円負けた。もう二度とやらない』と記した数日後に、パチンコでまた負けるんです。傍から見たら意志が弱い人ですが、日記は体調が悪化するまでずっと続けていました。

 ほかにも『死にたい、死にたい』と訴えながら数年間日記を書き続けた人や、延々とダイエットに失敗しながら生き続けている人もいました。みんなさまざまなことをコントロールできなかったり理想が叶わなかったりするなかで、それでもなんとか折り合いをつけながらがんばって生きている。日記も人生も“正解がない”ことが魅力なのだと思います」

 未曽有のことが起こっても、理想の自分じゃなくても、それでも前に進みたい――そんな気持ちが私たちに日記帳を開かせるのかもしれない。

※女性セブン2020年9月10日号

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