更紗の葬儀の日、親族らが泣き崩れる姿を眺めつつ、担任教師の舞香はどこか冷めてもいた。母親から〈お前は不細工だから笑ってろ〉と言われて育ち、笑顔が張り付いてしまった彼女は、生前の更紗に〈先生、もっと自分に自信持ってください〉と上から目線で言い放たれたことがあったのだ。だがそのさぞ美しかろう死顔を、遺族はなぜかひた隠しにするのだった。
更紗の死後、2組は夕菜を頂点とした〈新体制〉に移行し、更紗を神と崇める〈鹿野真実〉が死の真相を探るべく自称探偵を開始。だが、男子による格付けでE評価を受ける巨体の〈椛島希美〉やニキビ面の〈倉橋のぞみ〉、交通事故で頬に傷を負ってマスクが外せない〈九条桂〉が最底辺にいることに変わりはなかった。
そしてある日の授業中、舞香の目の前でその異変は起きる。〈夕菜の顔が真っ赤に腫れ上がっていた〉〈突起の先端が見ているうちに白く濁る〉〈ニキビだ〉〈ニキビが吹き出ている〉〈次々に。大量に〉〈裂けたニキビから音もなく、二滴三滴と新たな血が滴る〉〈「え、なに?」〉
逃れ難い「怖い物見たさ」の心理
「ニキビの一斉噴出とか急激な老婆化とか、非現実的な顔面変形に限定してはいますが、こんな呪いがもしあったら復讐に使いたい人はいると思うし、命を取られるよりショックな子もいるだろうと思うのです。
本書では各話の頭に古今東西の美醜に関する言説を引いてますが、岡本綺堂や手塚治虫や『古事記』にも醜い女は登場し、昔から人は“怖い物見たさ”の心理から、残酷にも逃れ難い。だから更紗がどんな顔にされたのか、自殺の真相を知った舞香が興味をもつ気持ちもわかるんです。教師も人間なので。
実際、先生同士が生徒の品評会をすることもあるようです。舞香の同僚が酒の席で下世話な噂話や犯人探しに興じるシーンは、(1)男性教師も女子を美醜で見ていること、(2)人が死んでいるのに犯人探ししか頭にない人間の馬鹿馬鹿しさ、を書きたかった。僕はミステリー色の強い作品を書く時ほど、ミステリーの約束事を必ず一つは否定したいと課しているところがあるのですが、人が死んでいるのに何が推理だという根本的疑問を、今回も手放したくありませんでした」