◆学歴格差と仕事格差
出会いは裕樹さんの同僚が開いた飲み会だった。由佳さんは30代を前に、転職したいともがいていた時期で、そのためにも生活を安定させたいと望んでいたと裕樹さんは話す。
「彼女、俺より高学歴なんですよ。ただ、俺たちは就職氷河期世代で、まあ、俺はラッキーなことに上手くいったんですが、彼女は高学歴でも希望の会社に入れず苦労した。女の人は男より大変だったんだと思います。で、新卒で入った会社をやめて、好きな英語を使った仕事への方向転換を考えていたんです。そんな頃に出会ったから、彼女の目には、大企業でバリバリ働いている俺がかっこよく映ったみたい。俺も彼女も恋愛経験が少なくて、デキ婚しました(笑)。俺は子供好きだから、子供ができたことは凄く嬉しかったんです」
由佳さんは旧帝大を、祐樹さんは東京の私立大学(MARCH)を卒業している。「学歴格差を感じた」と言うが、仕事について言えば裕樹さんの会社人生は順調で、順調に昇進もした。一方、由佳さんは結婚後、いったん仕事を辞めている。家庭を任せるぶん、由佳さんが希望の仕事に就けるようにと、翻訳学校の費用などは裕樹さんが負担してきた。
「彼女、勉強家なんで。そこは純粋に凄いなと尊敬してたんですよね。俺は大学までずっとスポーツやってきて、大学もスポーツ推薦で入って、筋肉バカっていわれてきたんで、会社の人とか友人に彼女を紹介するとけっこう驚かれるというか。それが心地よかったりもしました。それに俺たちの子って、勉強もスポーツもできる子になりそうで期待がもてるじゃないですか(笑)」
妻の由佳さんは出産後、少しずつ、フリーランスで翻訳の仕事を始めた。晴れて語学力を活かした仕事に就いたが、すぐには仕事量も収入も安定しない。自宅で仕事ができるので子育てと両立しやすいものの、由佳さんにはもっと働きたいという気持ちがあり、悩んでいたと裕樹さんは言う。とはいえ、仕事だったら何でもいいわけではないようだった。
「彼女の口癖は“成長したい”。だから仕事もけっこう選んでる様子でした。贅沢だな、って思ったけど、まあ俺は、彼女が働いても働かなくてもいいから、その辺は口出ししなかったんですよ。子供が小さいうちは、子育て優先のほうがありがたいという気持ちが正直あったんで」