特に、3度あるサビ終わりの“決めポーズ”において、明確な差があった。フルコーラス歌唱の『人生、歌がある』ではターン(2度)や静止した状態(1度)からカメラに指を差すなどしていたが、『うたコン』では足を上げた後にスーツの端をヒラリと浮かせ、前屈みになってカメラ目線で〈悪くないだろ〉と最後の歌詞を言い放った。
田原が番組前後のリハーサルやツアーに向けて練習する中で、何がしっくりくるかを試行錯誤した結果、自ら生み出したのだろう。
『うたコン』で曲と決めポーズが調和した時、私は往年の輝きを感じた。思い返せば、田原は1980年のデビューから10年にわたって37作連続オリコントップテン入りを果たした。快挙を成し遂げた理由の1つに、新曲の度にそんな“胸のすく瞬間”を積み重ねていったことが挙げられる。
『ハッとして!Good』『君に薔薇薔薇…という感じ』『ごめんよ涙』などの編曲者である船山基紀は派手でゴージャスな曲調の中に、踊りの見せ場を作った。この仕掛けによって、田原のダンス力が生かされ、視聴者は1曲の作品に魅了されていった。そしていつしか、“ポーズが決まる曲”イコール“田原俊彦らしい曲”になっていった。
1988年、人気音楽番組『ザ・ベストテン』(TBS系)で年間1位に輝いた『抱きしめてTONIGHT』では、印象的なイントロがやや落ち着いたところで、踊り始める。この緩急によって、曲とダンスが融合する。サビを歌い出す前に3回転ターンできる間を入れ、ラストも決めポーズを取れる締め方にしている。
このように、船山の編曲には“緩急”や“決め”が存在し、歌って踊れる“田原らしさ”がフルに発揮できる構成になっていた。
一方、ここ数年の踊る新曲(シングル)は、どこか“田原らしさ”を欠いているように見えた。それは、本人のダンスを際立たせる“緩急”や“決め”があまりなかったからかもしれない。“らしさ”の正体は、曲自体にもあったのだ。
田原は『愛は愛で愛だ』で“自分らしい曲”という手応えを久しぶりに感じたため、配信ライブで2度も歌ったのではないか。