社員による国の持続化給付金不正受給問題で謝罪する沖縄タイムスの武富和彦社長(左)ら(時事通信フォト)

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 そのビジネスマンこそ、前出の野本氏である。ちなみに、男性の上司にも筆者は電話取材を試みたが「警察には話した、自分の身も危ない」として取材拒否。唯一「地元仲間からの紹介」とだけ話してくれた。野本氏はこの上司と違い仕事仲間向けではなく、SNSで広く「募っている」ので、大規模であることが分かってきた持続化給付金の不正受給について何か知っているのではないかと筆者は事務所を訪れた。ところが彼はひどく慌てた様子で「誰から聞いた」「どうして住所がわかった」と言うばかりだった。

 実は野本氏、インスタグラム上では「ネットビジネスの成功者」として本名とは別の名を名乗り、高級車に乗ったり高級な飲食店で散財するライフスタイルの投稿を続けている。だが、彼が実際に関わったビジネスに関わることとして確認できたのは、知人から金を騙しとったとして逮捕された前歴のある「情報商材屋」という顔だった。情報商材屋とは情報を売ることをビジネスにしている人たちのことだが、何を売っているのかと言えば文字通り、金儲けができる方法、女性にモテる方法などの「情報」だ。だが、その販売方法はいわゆる「マルチまがい商法」であり、法的にはかなりグレーである。そんな商売を続ける中で、同業者の知人と金の貸し借りでトラブルになり、訴えられて逮捕の前歴がついた。

 野本氏はその後、自己破産をして江戸川区にある実家に身を寄せていたが、ほどなくしてまた「ネットビジネスの成功者」を名乗る商売を開始。「持続化給付金」の件についても、自宅自室のパソコンから更新したことを認めた。自分の前歴と現在が具体的に結びつけられる表現は避ける、という条件の下、次のように語ってくれた。

「実はこれも、情報商材界隈で出回ったスキーム(計画、枠組み)なんです。持続化給付金を受け取る条件に合わない非事業者、非フリーランサーでも金を受け取る方法があるという話そのもの、これ自体が『商材』みたいなもの。その商材を先輩から紹介され、SNSに書き込んだのも事実です。僕の紹介で(給付)金がおりたら、僕にもいくらかバックされる予定でした」(野本さん)

 結局、5月ごろになって知人から「詐欺の片棒かつがされている」と指摘され、慌てて投稿を消した。

「グレーだとは思っていましたが、逮捕されることはないと思った。紹介した人は二人くらい。でも結局僕のところにお金は入ってきておらず、警察にも相談したが、特に取り調べもない」(野本氏)

 実際にやったことといえば、その二人を情報商材ビジネスで知り合った「師匠」に紹介するだけ。もちろん自分も、この師匠を通じて確定申告をし、100万円の給付金を得ている。税理士が誰かは明かさなかったが、この「紹介するだけで金が得られる」というのは情報商材販売者界隈だからこその感覚。ネズミ講やマルチ商法に、なんら違和感を持たないのである。野本さんはこの「スキーム」について、情報商材屋が金儲けをするための方法くらいにしか思っていないようだが、捜査関係者は次のような見方を打ち明ける。

「持続化給付金の給付決定と、コロナの影響で確定申告の期限が後ろ倒しされたことを悪用した詐欺です。何も知らない一般人は、言われるがままに印鑑や通帳、公的書類などを持参し、協力者である税理士を訪ね、嘘の確定申告をする。コロナのせいで収入が下がったという嘘の書類を作らせて、あとは別の第三者が役所に申請し、金が振り込まれたら幾らかを一般人へ、残りはみんなで山分け。緊急事態なので役所もスピード重視であれこれ調べないが、少し調べればすぐ嘘がわかる。でも、その時点で首謀者はトンズラ。悪いのは申請の名義人となっている一般人だけということ」

 犯罪ではないがグレーな方法で「金儲けができる」と甘い言葉を信じたのは、対象ではないのに持続化給付金が欲しいと、SNS上で情報商材屋に接触したり、知人から持ちかかけられ話に乗った一般人だけではない。野本氏のような仲介者や、確定申告の書類作成などに協力した税理士も含まれるかもしれない。

 結局こうした人々は、自分では「被害者」のつもりでも、国や市民から見れば、卑怯な税金泥棒に他ならない。彼らの大半は事情を知らなかったとして、善意の「第三者」であることを主張しているようだが、起きているのは公金の詐取である。いったい、捜査当局がどう判断するか。「持続化給付金詐欺」は沖縄だけでなく日本全国で、かなり大多数の人間が関わって行われており、各地の司法当局が全容解明に向けて動いている。

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