ライフ

「人生で一番幸せ」 60代半ばの女性が没頭した学びの時間

元気に運動する60歳のころの母を見て少し複雑な気持ちに

元気に運動する60歳のころの母を見て少し驚き(写真はイメージ)

 認知症の母(85才)を支える立場である『女性セブン』のN記者(56才)が、介護の日々の裏側を綴る。今回は、「散歩」にまつわるエピソードだ。

 * * *
 私が子供の頃、母はいつも家にいた。趣味といえば読書程度で、家族以外のために時間を使う姿を見たことがなかった。そんな母が「人生でいちばん幸せ!」と目を輝かせたのは、仕事も子育ても引退後の“第二の人生”でのことだった。

俳句、体操、風水、株式……驚くべき母の第二の人生

 父が急死し、認知症の母がサ高住に転居することになったときのことだ。両親の家をひとりで整理していると、半世紀分の荷物の中に私の知らない親の姿が次々と見えて、うろたえた。特に写真は衝撃的だった。家族旅行など懐かしい写真に交じって、母が知らない人たちと楽しそうに笑っている写真がたくさん出てきたのだ。

 よくよく見ると、何枚かは俳句教室だ。先生らしき老紳士を囲んで、母や中年女性たちがわれ先にとしゃべる様子が伝わってくる。同じメンバーの旅行スナップもあった。ほかにも体操教室か、集会場で溌剌と動く見慣れないスポーツウエア姿の母も。これには驚いた。私が知る母は運動とはおよそ縁遠い人。自転車にも乗れないのだ。

 写真と一緒に「百歳まで歩こう」とキャッチコピーが書かれた会員カードも紛れていて、思わず苦笑した。要介護になった母が自らリハビリ系のデイサービスを選んだり、認知症が進んでも日課のように散歩に励んだりするのも、なるほど、ここに原点があったのか。

 母が教室に通っていた60代半ば頃、私は両親をまったく顧みていなかった。仕事も忙しく、自分のことでいっぱいいっぱいだったのだ。それでもおぼろげに母が、「人生でいまがいちばん幸せだわ」と言っていたことだけは覚えている。

 結婚前から続けていた縫製の仕事を引退し、ぽっかり時間が空いたはずだが、うまく時間をつぶしているのだと、そのときは思うだけだった。しかし、締め切りや責任から解放され、興味の赴くまま何かを学んだり、初挑戦するのは、どれほど心躍ることか。当時の母と同年代になった私もよくわかる。

 そのほか株式投資や風水も学んでいた。70代半ば、40年暮らした団地から夫婦で新天地へ移ろうとしたときも、目を輝かせて吉方の物件を探していた母の姿が懐かしい。

不思議な散歩習慣も体操教室の影響?

“100才まで”を目標にしているのか、母の散歩習慣はコロナ禍のいまも継続中。認知症も進んできたので迷子が少々心配だ。たまたまサ高住の入口で母を見掛けたヘルパーさんから聞いたところでは、

「Mさん、前の道をまっすぐ行って横断歩道で止まると、キョロキョロ見回して、どっちへ行くのかなと見ていたら、クルッと回ってこちらへ引き返して来られたのよ」

 最近はこの150mほどの直線路を往復し、ミニ散歩を楽しんでいるようだ。横断歩道を渡ってしまうと複雑な住宅街に入り厄介なので、横断歩道がストッパーになっているのは、ちょっと安心だ。

 認知症に詳しい医療者に聞くと、目的を持って歩き出して 「この先はわからない」と自覚できることは多いそうだ。迷子になるのはそこでパニックになるからだという。

「お母様は気持ちが落ち着いていて、散歩しようという意欲があるのね」と言っていただいた。油断はできないが、母のやる気がうれしかった。その意欲、応援したいと思う。

※女性セブン2020年10月29日

関連キーワード

関連記事

トピックス

神田正輝の卒業までに中丸の復帰は間に合うのか(右・Instagramより)
《神田正輝の番組卒業から1年》中丸雄一、『旅サラダ』降板発表前に見せた“不義理”に現場スタッフがおぼえた違和感
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)の“過激バスツアー”に批判殺到 大学フェミニスト協会は「企画に参加し、支持する全員に反対」
NEWSポストセブン
主人公・のぶ(今井美桜)の幼馴染・小川うさ子役を演じた志田彩良(写真提供/NHK)
【『あんぱん』秘話インタビュー】のぶの親友うさ子を演じた志田彩良が明かすヒロインオーディション「落ちた悔しさから泣いたのは初めて」
週刊ポスト
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《いまだ続く広陵野球部の暴力問題》加害生徒が被害生徒の保護者を名誉毀損で訴えた背景 同校は「対岸の火事」のような反応
週刊ポスト
どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
相川七瀬と次男の凛生君
《芸能界めざす息子への思い》「努力しないなら応援しない」離婚告白の相川七瀬がジュノンボーイ挑戦の次男に明かした「仕事がなかった」冬の時代
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン