大の犬好きで落語好きな彼女は、まずは犬の散歩や犬連れで行く近所の居酒屋、そして落語会に着物で行くことを目標に、「Yahoo!知恵袋」に相談事を書き込むなど、ネットもフル活用。また着付けを習うに際しては、フリーランスの身のため曜日固定型の教室より、〈ギュギュッと濃縮時間の個人レッスン〉が合うと判断し、下北沢「着縁」のオーナー、小田嶋舞氏の門を叩く。そして衿元の扱いや、似合う着物選びは〈粋VSはんなり〉が鍵を握ることなど着々と見識を付け、開眼していけたのは、人選の力もあろう。
ライフスタイルに着物を組み入れる
「ノンフィクションの取材手法に則りつつ、『粋の対義語は、はんなりなのか!』と驚くなど、着物の素人としての軸は最後まで失わないよう心掛けました。そして犬と暮らし、物を書いている自分の軸も、着物を理由にブレさせたくなかった。なので犬の散歩もすれば焼き鳥屋にも行く今のライフスタイルに、着物の方を組み入れたかったのです」
となると選ぶのは麻やポリエステルなどの〈洗える着物〉。初めて買った〈アイボリーの地に黒の縦縞、両肩から袖にかけて巨大な朱色のアネモネが描かれた〉夏物のポリエステル着物は“粋”系の彼女によく似合った。そしてとかくスルーされがちな〈トイレ問題〉にも果敢に切り込むなど、〈手っ取り早く着慣れたい〉という欲望に清々しいほど素直な片野氏なのだ。
だが問題は着物警察だ。一見親切だが排他的な彼らの撃退法に関して、片野氏は若い人の意見を求め、人気着物YouTuter・着物着付け講師のすなお氏と会うべく、一路京都へ。すると彼女は〈現代ほど着物をキチキチ着ている時代はない〉と言い、特に着物経験者の多くは〈自分の知識や常識がローカルルールだと気づいていないこと〉が問題だと指摘。例えば昭和34年当時の美智子妃殿下の着物姿は今より帯揚げの処理などが大らかだったと言い、着物警察を〈そんなもの、最近できたルールやで!〉と一蹴してみせる。
「最高の殺し文句ですよね。せっかく着物姿で町に出た人が不安で怖い思いをするなんて哀しすぎます。自分と相手の常識が違うというだけで人を攻撃するなど、そういう事態はなくしたい。
でも着物警察を疎ましいと思いつつ無視できないのは、たぶん正解が欲しいからで、大いに日本的ではあるんですよね。今ある正解の多くは呉服屋さんらの都合で戦後に作られたものですが、個人的には〈正解はカッコイイ、カワイイでいい〉と思うのです」