ところが、そこから事態が急変する。菅と東京都知事の小池百合子とのバトルだ。さらに農水省関係者が言葉を加える。
「トラベルと同じくイートも、当初は全国一律の一斉事業でした。だが、菅対小池の対立の末、菅さんが7月20日になって、キャンペーンから東京を外すと言い出した。それではぐるなびが対応できないのです」
どういうことか。
「Go Toイートの割引は、紙の食事券発行とサイト予約のポイント付与の2種類があります。紙なら全国共通食事券を都道府県ごとの自治体発行のそれにすればいい。しかしサイト予約の場合、ポイントを獲得した東京の人が全国どこでも使えることになる。サイトのシステムを変更しなければならなくなり、ぐるなびを始め予約サイトに負担がかかる。だからイートは東京を加えるまで待とう、となったのです」
つまり菅が東京都と揉めたせいで、事業のスタートが遅れてしまったわけだが、苦しいのは旅館も飲食店も同じ。受け皿となるサイトの都合で救済策が遅れてしまうのでは、本末転倒も甚だしい。
楽天とGo Toトラベル
10月1日から始まったGo Toイートのおかげで、ぐるなびの売上げは急増。14日までのネット予約の利用件数が前年同期比2.5倍となり、9月から3.6倍に伸びているというから、Go Toさまさまというほかない。また黎明期からインターネットビジネスを展開してきた滝は、デジタル庁の新設を旗印に掲げる首相にとって心強い相談相手なのだろう。ピーク時の2017年3月期には、連結純利益で47億円の黒字を弾きだしてきた。
もっとも、ここ数年のぐるなびの経営状態は決して順調とはいえない。原因は個人SNSのインスタグラムの普及により、サイト情報の価値が失われたことにあるとされる。すでに昨年5月時点で、今年3月期決算は35億円の赤字見通しだと発表された。そこを救ったのが、同業者の楽天社長、三木谷浩史である。
会員数1700万人ほどのぐるなびに対し、楽天会員は1億人を超える。三木谷は2018年3月からぐるなびポイントを楽天ポイントに交換できるようにし、夏から資本提携を進めてきた。創業者の滝の保有株を一部買い取り、楽天が15%を出資する筆頭株主となっている。滝自身は今も会長として残っているが、昨年6月に楽天の共同創業者である杉原章郎が社長に就いた。