そう、『姉ちゃんの恋人』の登場人物は、いわば派手なスポットライトの当たらない普通の人たち。弟3人を養う桃子(有村架純)はホームセンターの売り場で働き、配送部署の吉岡真人(林遣都)に恋している。上司の日南子(小池栄子)は、やはり同じ職場の悟志(藤木直人)にぞっこんで、桃子たちとダブルデートを計画する。ドラマの舞台はホームセンターと家との行き来が大半。狭いエリアでの、小さな出来事に心を振るわせる。
強い自己主張はないけれど自分なりの幸せをみつけようと生きる。現実としてそれがほとんどの人の姿だとすると、このドラマは限りなく“ボリュームゾーン”に目をこらしていると言えるでしょう。
人生の大半はうまくはいかない。けれど何とか折り合いをつけていく。そんな日常と地続きの小さな非日常(=恋)の「あわい」を描き出し、人は誰かと支え合っている、ということを改めて浮き彫りにしていきます。
コロナ禍の影響で遠くへ旅行できなくなった時に提案された「マイクロツーリズム」という言葉があります。「遠出するのではなく、地元を歩き足もとにある魅力を再発見する旅」という意味です。とすればこのドラマは、身近な生活の中にドラマツルギーを再発見していく「マイクロドラマ」としての挑戦かもしれません。その意味で、主演・有村架純さんはまさに適役。ふと身近にいそうな親近感とどこか地に足のついた生活感があり、岡田ワールドを描くためには必須の人材です。
一方、桃子が恋する真人役・林遣都さんの演技も注目です。生真面目でどこか不器用で庶民的な匂いが漂う。スポットライトを浴びるタイプというより、クラスの片隅にいそうな。それだけでなく真人は過去に深刻な問題を抱えているらしい。トラウマを背負う暗さが伝わってくる。母親役・和久井映見さんと共にいわば「シリアスなパート」を一手に引き受けている感があります。秘密が明かされた第4話では、実は元カノがレイプされそうになり意図せず激しく暴力を働いてしまったことが判明、手錠つけられて逮捕というシビアな過去の映像が流れました。ドラマの折り返し地点でさらに冴えを見せる林さんですが、内容としてはこれまでのホームドラマ的ほのぼの感とは違う、緊迫した空気が流れ込んでいました。
姉・弟たちの家庭劇パートと、ラブコメ調の日南子と悟志のパート、そしてシビアさ漂う真人のパート。質の違う3つのパートを今後どうやって溶け合わせていくか。ふと気恥ずかしさを感じてしまうようなホットな家族関係にも、何らかの変化が訪れるのかどうか。新たなマイクロドラマの見所はそのあたりにありそうです。