翌日、鰻屋の二階では番頭が同席し、やって来た母に「私がここにいるのは、このあと亀ちゃんに連れていってもらってお前さんに会おうと思ったからなんだ」と言う。番頭が重要な役割を果たすこの演出は小さんオリジナル。第三者が間に入って仲を取り持つのは自然な流れだ。
「亀ちゃんのためにもう一度」と言う番頭に女房は「私も正直辛かった。嬉しいお話です」と涙する。もらい泣きした番頭が「子は夫婦の鎹だねえ……」と呟くと亀吉が「鎹? それで玄翁でぶつと言ったんだ」。
小さんの型を独自に練り上げ、ダイナミックな演技で聴き手を引き込む聴き応え満点の名演だった。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2020年11月27日・12月4日号