芸能

柳家権太楼 師匠小さんの型を練り上げたダイナミックな名演

柳家権太楼の人情噺『子別れ』に心を打たれる(イラスト/三遊亭兼好)

柳家権太楼の人情噺『子別れ』に心を打たれる(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、柳家権太楼が通しで演じた人情噺の大ネタ『子別れ』についてお届けする。

 * * *
 10月10日の「大手町落語会」で柳家権太楼が演じた『子別れ』(通し)が素晴らしかった。

 権太楼の『子別れ』は五代目小さん直伝の型だ。僕は2007年に権太楼が『子別れ』を「上・中」と「下」に分けて演じたのを観たが、その時、権太楼はマクラで「自分にとって『子別れ』は大切な噺です」と、小さんとのエピソードを語った。『子別れ』を稽古してくれと申し出た権太楼に小さんは「紀伊國屋ホールで演るから前で観ろ」と言った。そして当日、終演後に権太楼を伴って寿司屋へ行った小さんは「あの亀吉は俺なんだ」と語ったのだという。

 今回の権太楼の口演は「上」から一気に「下」まで演じたもの。弔いで酔い潰れた大工の熊が吉原へ向かう場面を描き、強飯の件は割愛して「品川で馴染みだった女が吉原に鞍替えしていたので三日居続けをした」と地で語る。帰宅した熊が女房と喧嘩になって妻子を叩き出すのが「中」で、ここをみっちり演じるのが小さん演出の特徴だが、この口演では「それから熊は吉原に通い詰め、夫婦喧嘩の絶え間がない」と地で説明してから別れの場面を短く演じ、吉原の女との顛末を挟んで「下」へ。

 別れて3年後。番頭と木場へ向かう熊が偶然出会った亀吉は「両親が揃っているのが一番幸せなんだって先生が言ってたんだ。オイラ親孝行するから、また一緒に暮らそうよ」と言う。小さんにもあった台詞だが、権太楼の演じる亀吉は何ともいじらしく、思わず熊は涙する。

 母には内緒だと言い聞かされて亀吉が帰宅すると、小遣いにもらった50銭を母に見咎められた。約束を必死に守り通そうとする亀吉だが、盗んだ金だと思った母が泣きながら玄翁を持ち出して「これはおとっつぁんが叱るんだ!」と責めると、亀吉は号泣しながらすべてを打ち明け「明日おとっつぁんに会いたい……行っていいだろ!?」と訴える。迫真の演技が胸を打つ、出色の場面だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン