ライフ

【著者に訊け】相場英雄氏 社会の最暗部を照らす警察小説

相場英雄氏が新作を語る

相場英雄氏が新作を語る

【著者に訊け】相場英雄氏/『アンダークラス』/小学館/1700円+税

 愛用のB7判リフィルを、事件が終わるまでに何度も買い足さなければならないほどのメモ魔で、ガラ携ユーザーでもある、警視庁捜査一課継続捜査班の窓際警部補〈田川信一〉。『震える牛』(2012年)では食肉偽装や大型モール進出による町の崩壊を、『ガラパゴス』(16年)では非正規労働や格差の実態を田川に目撃させてきた相場英雄氏は、第3作『アンダークラス』でついに、日本そのものの下層階級化に光を当てる。

 端緒は2019年2月、秋田県能代で起きた老女殺害事件。市内の介護施設に入居する〈藤井詩子〉85歳が、ベトナム人職員〈ホアン・マイ・アイン〉29歳に車椅子ごと川に突き落とされて即死し、ベトナム大使館に出向中、技能実習生の彼女と面識があったという管理官〈樫山順子〉に協力を依頼された田川は、早速秋田へ飛ぶ。

 半年前に神戸市内の実習先から失踪し、秋田に逃れたアインは、末期がんの詩子に殺害を頼まれたと自供、自殺幇助容疑で逮捕されていた。が、俗に〈殺しの手〉と呼ばれる遺体の形状から彼女の嘘を見抜いた田川は2人の接点を神戸に探り、孤独な老女の死に映り込むこの国の来し方、行く末に改めて震撼することになる。

「僕は取材ではメモより写真を撮りますね。例えば詩子が生前口にした〈ヤマガワ〉という言葉や、昔からの繊維の町で彼女も働いていたことを手掛かりに、田川と樫山が聞き込みに歩いた三宮や長田界隈を僕も歩きました。

 そこで写真を撮りまくるわけですが、西の下町はホント、濃いキャラのおっさん、おばちゃんばかりで(笑い)。おかげで県道沿いに大型チェーンが並び、町の顔が見えなかった前作に比べると取材も断然楽でしたし、特に神戸は今まで縁のなかった土地だけに発見が多く、その新鮮さ、面白さが田川の旅に生きた気もします」

 微かな手掛かりを頼りに各地をゆく地道な捜査行は、松本清張作品を彷彿とさせ、カメダケならぬヤマガワが事件を解く鍵となるなど、「そこは完全に『砂の器』を意識しました!(笑い)」。

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン