菅義偉首相、西村康稔経済再生担当相らとの協議後、記者団の質問に答える赤羽一嘉国土交通相(中央)=12月16日、首相官邸(時事通信フォト)
GoToトラベルの全国一斉一時停止は12月28日から来年1月11日の成人の日まで。これまで政府はあくまで限定的な一時停止にこだわっていた。13日午後までは大阪市や札幌市の割引停止の延長や東京都と名古屋市を一時停止するか否かの調整をしていたはずだった。それが急転直下、翌日になって突然の全国一斉一時停止である。国民の命と暮らしを守るためだと言うが、官邸は加藤勝信官房長官の15日午前の定例会見でGoToトラベルが新型コロナウイルスの感染を拡大させた証拠はないという認識は変えないと明言した。
「GoToトラベルでやっと一息つくかなという感じだったんです。ウチだと7割くらい戻った。大手さんならもっと売り上げてるでしょうね。北海道以外のパッケージも好調でした」
コロナで困窮して死ぬのは嫌です
パッケージとは募集型企画旅行商品、いわゆる宿泊と移動がセットの企画商品だ。旅行会社は団体も含めたパッケージ(パッケージ・ツアー)の売上が生命線のひとつ。確かに筆者が11月の羽田空港を訪ねたときは高齢者のツアーと思わしき旅行客が多く、夏以前に比べれば明らかに回復しているようにみえた。羽田空港の利用者も国内線利用客数は9月の段階ですでに196万人、緊急事態宣言真っ只中の5月の利用客が33万人なので約6倍の増加だ。各観光地も高級旅館やホテルを中心に好調で、GoToトラベルの効果は間違いなくあったと言っていい。実際、筆者の周辺でも高齢者や学生を中心に秋の旅行を楽しんでいた。
「キャンセル分は補償されますが、うちみたいな小さいとこでも50%じゃ割に合いません」
15日、赤羽一嘉国土交通相は全国一斉停止期間中のキャンセル分を50%補償すると説明した。1件あたりの上限は2万円。東京、大阪、名古屋、札幌のすでに一時停止や自粛要請中の地域発着分も35%補償するという。当初売上を考えれば社長が言う「足りない」はもっともだが、これらが税金と考えると個人的には複雑だ。
「わかります。みなさん同じように大変ですものね。それはわかってるんですが、こっちの事情で言うしかないんです。勝手に思われるかもしれませんが、それも(それぞれの事情で言うこと)みなさん同じでしょう、誰だって本音は自分の都合が最優先です」
社長だって欲張っているわけではない。もう半年以上、業界が窮乏する中でなんとかして欲しいは切実な願いだろう。ましてGoToトラベルでやっと回復の兆しが見えたと思ったらこれだ。各業界、個々人のコロナ禍に対する反応は様々だろうが端的に言うと真っ二つ、筆者がこれまでのルポの多くで問いかけた、「命をとるか、経済をとるか」だ。
「命が大切なのはわかってますよ。でもこれからなんてわからない。いまは死者だって酷い国に比べたら少ないけど多くなるかもしれないし……でもこれからこの程度で済むなら、経済を回したほうがいいんじゃないですか、コロナで死んでる数なんて他の事故やら病気やらに比べたら全然少ないでしょう」