X氏がエージェントになったのは自然発生的、ある騎手から依頼されたからだった。
「引き受けた以上は、騎手の嫌がることを全部こっちでやろうと」。騎手のモチベーションを上げるage。その関係性を見聞きした騎手も入ってくる。
出走馬について、乗り役には陣営からの指示があるわけだが、それとは別にX氏も共に策を練る。「この馬、長く脚を使えない。シンガリでじっと追走して、直線の勝負どころで一気に行こう」などなど。実際、その通りの展開となって10番人気の馬が勝ったこともある。
さらにレースレビュー。「ジョッキーは馬の手ごたえを伝えてくれる。こちらは客観的にレースを振り返る。あそこで仕掛けたらもっと走れたのでは、と」。反省会もそれぞれの流儀に合わせる。鉄は熱いうちに、と考えるCはその日の夕方に電話がかかってくる。AとBは水曜か木曜日、トレセンで話す。「頭を冷やしてから振り返りたい」というタイプである。
取材直後の土日に馬柱を見ると、「チームX氏」の3ジョッキー重複が4レース。結果は全滅。こういうことだってありますよ。
【プロフィール】
須藤靖貴(すどう・やすたか)/1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2021年1月1・8日号