現役・将来世代への配慮なし
その象徴が、昨年12月に公明党との間で合意した75歳以上の医療費窓口負担の1割から2割への引き上げだ。自民党は対象を年収170万円以上としていたが、公明党が240万円以上を主張したため、双方のほぼ中間にあたる200万円以上になった。かつて自民党の金丸信・元副総裁がよく使った「足して2で割る」手法である。私は当初、自民党案を評価していたが、結局、公明党に譲歩して中途半端になってしまった。与党の政治家たちは「財政規律」を全く考えていないし、「現役世代および将来世代の負担」にも配慮していないのである。
2020年度の新規国債発行額は、初めて100兆円を超えて112兆5539億円に達する。リーマンショックの影響で過去最大だった2009年度の51兆9549億円の2倍以上である。2020年度の歳出は175兆6878億円で、過去最大だった2019年度の約1.7倍に増える。2021年度予算案の一般会計総額も、過去最大の106兆6097億円で、いわゆる「ワニの口」(※国の一般会計予算の動きを示すグラフ。歳出の推移をワニの「上あご」、税収の推移をワニの「下あご」に見立てると、ワニが口を開いたように見えることから名付けられた)は開く一方だ。菅政権は将来に大きな禍根を残す政治を行ない、国の借金を増やし続けているのである。
一方、新型コロナ禍で世の中は様変わりしている。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、eコマースや配達サービスの利用拡大などによって昔のような繁華街の賑わいはなくなり、働き方も多くの業種でテレワークを基本的に取り入れている。これは新型コロナ禍が終息しても、元には戻らないと思う。
本来、いま政府は中国、台湾、韓国、東南アジア、アメリカ、ヨーロッパなど世界の状況を注視しながら、日本経済を立て直すための人材育成を軸とした新たな国家ビジョンや国家観を打ち出すべきだが、それはないものねだりかもしれない。このまま迷走が続いたら、自民党は今年の総選挙で敗北し、菅政権は短命に終わるだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。
※週刊ポスト2021年1月29日号