ライフ

第27回小学館ノンフィクション大賞・大貫智子氏 日韓夫婦への取材で感じた「幸せ」とは

第27回「小学館ノンフィクション大賞」を受賞した大貫智子氏(写真/毎日新聞社提供)

第27回「小学館ノンフィクション大賞」の大賞を受賞した大貫智子氏(写真/毎日新聞社提供)

 マスコミが報じない香港デモの実相や“パパ活”の現場など、外部からは窺い知れない現代社会の舞台裏を描いた5作品が最終候補となった第27回「小学館ノンフィクション大賞」。その中から大賞に選ばれたのは、戦争で引き裂かれた夫婦の希有な生涯を辿る長編。受賞作の『帰らざる河──海峡の画家イ・ジュンソプとその愛』(大貫智子氏・新聞記者/45歳)は、今春にも刊行予定。

【受賞作品のあらすじ】
 韓国で国民的人気を誇る画家、李仲燮の生誕100年記念の展覧会が2016年、ソウルで開かれた。そこには、日本人妻、山本方子への愛情が込められた名作や日本語で記された数々の手紙が展示されていた。

 日本統治時代、李仲燮は自由な芸術教育を掲げた文化学院に留学していた。方子は2年後輩で、2人は神田や井の頭公園でデートを重ねていく。戦局の悪化に伴い、李仲燮は他の朝鮮人留学生と同様に帰郷した。朝鮮・元山からプロポーズの電報が届くと、方子は米軍の機雷攻撃も恐れず玄界灘を渡った。2人は1945年春、夫婦となった。

 金日成主導の土地改革により、豪農で知られた李仲燮一家も土地を没収されたものの、多少の財産は残った。子宝に恵まれ、幸せな新婚生活を送った。

 運命が暗転したのは朝鮮戦争の勃発だった。開戦から約半年後の1950年12月、一家は海路、釜山へ避難した。さらに温暖な気候を求めて済州島へ移る。配給されたコメと海辺で採ったカニ、山で摘んだニラを食卓で囲みながら、家族4人は穏やかな時を過ごす。そんな思い出の一コマを李仲燮は画に多く残した。

 ただ、息子2人が極度の栄養失調に陥った。方子の実家からは、父が急逝し、遺産相続のため帰郷せよとの便りが届く。方子は子供たちを連れて帰国することを決める。「夫とはまた会える」と信じ切っていた。

 夫婦は1年後、日本で再会した。李仲燮が船員の資格で渡日できることになったのだ。ただし、1週間で帰ることが条件だった。これが今生の別れになろうとは思いもしなかった。1956年、李仲燮は誰にも看取られずに旅立った。友人からの電報で、方子は夫の死を知る。夫婦が共に暮らしたのはわずか7年。そんな方子を支えたのは李仲燮が残した作品や手紙だった。

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン