家族についてはほとんど語ってこなかった(写真提供/佐藤企画)

家族についてはほとんど語ってこなかった(写真提供/佐藤企画)

初めて大学を休んだ

 スミちゃんにがんが見つかったとき、ぼくは駒澤大学に通ってた。病院から「検査の結果をお知らせしたい」っていう連絡があったのは、定期試験の前の週で、講義に出ないと試験を受けられない。

 大学は一日も休まずに行ってたんだけど、その日に初めて休んだ。全部出席しなかったら単位は取らないって決めてたから、その講義は翌年また再挑戦することになる。でも、ぼくは今までスミちゃんのために、何かしたことなかったから。

 ぼくと息子たちの前で、先生は「よくない結果でした」と話してくれた。本人にも、さすがに「あと半年」とは言わなかったけど、先生に伝えてもらった。「がんでした。いっしょにがんばって戦いましょう」って。

 そしたら「ハイ、大丈夫です、先生」って力強く答えてた。

 結婚してからずっと、スミちゃんは「男は仕事が大事。家のことなんて気にしないで」と言い続けていた。強がりでも何でもなくて、心からそう思って、自分のスタイルを貫いた人だった。

 三男が生まれたときに、二宮町(神奈川県)の海の見える山の上に家を建てた。ぼくは東京で何本もテレビ番組を抱えて、たまにしか帰れない。でも、たまに帰って子どもと遊んでると、スミちゃんは「無理しなくていいから」って言うんだよね。「ぜんぜん楽しそうじゃない。いい父親の真似事なんてしなくていいから、笑いのこと考えてなさい」って。

 仲が悪かったわけじゃないよ。でも、デートは一度もしたことがない。いつだったか買い物に行くついでに、畑の中を10分ぐらい腕を組んで歩いた。「もういいでしょ」なんて言われながら。それが唯一のデート。

 奥さんというより、「頼りになるお姉さん」だったんだよね。何より、3人の息子の「立派なお母さん」でいてくれた。ぼくにとっては「理想の奥さん」でしたね。

【インタビュー・構成】
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)/1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「恥をかかない コミュマスター養成ドリル」など著書多数。

※週刊ポスト2021年2月12日号

「奥さんというより、頼りになるお姉さんだった」

「奥さんというより、頼りになるお姉さんだった」

関連キーワード

関連記事

トピックス

「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(容疑者の高校時代の卒業アルバム/容疑者の自宅)
「軍歌や歌謡曲を大声で歌っていた…」平原政徳容疑者、鑑定留置の結果は“心神耗弱”状態 近隣住民が見ていた素行「スピーカーを通して叫ぶ」【九州・女子中学生刺殺】
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン