でも、私が1980年代後半に離婚したら、共働きの世の妻たちから愚痴や離婚の相談をしょっちゅう聞くようになったのよ。夫婦不仲の原因は、ほぼ100%、お金。夫は「家事は手伝ってもいいよ」レベルで、家庭内では戦力にならない。それで生活費は男女平等。「あんただって稼いでいるんだから」というのが男の言い分だけど、やってらんないって。
で、話を元に戻して、森さんの発言だけど、昭和初期生まれの男は「女性は……」と言うときの口調が甘いのよ。上から、という言い方をしてもいい。おじいちゃんが孫娘に向ける視線をどこかに残したまま、公の場に出ちゃう。
多様性が求められるグローバルな世界で、しかもそれを強く意識すべき五輪という場で、女性を軽視するような発言を平気でするなんて……などと言ったところで、当の本人は意味をよく理解していないし、失言とは思っていないんじゃないかと思う。
その意識がダメだ、老害だ、という批判はきっと正しいんだと思う。けど、あえて言うけど、それは国際的に糾弾されるほどか。日本中で袋叩きにしなくちゃならないか、と昭和に育った私は思うわけ。
森さんがヘタを打ったのは、そっちじゃない。コロナ禍の中、東京五輪をやるの、やらないの!? 五輪景気を当て込んで投資した企業のお金はどうなるの!? 飲食店や個人商店に勤めていた少なからずの人々が失業して、今月は補助金でなんとかしのいでも、来月は、再来月は……!?
日本中が不安でパンパンになっているときに、トップの座に居座る高齢者はとても微妙な立場に立っている、ということに気づかないと。森さんは東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長職は無給だったと言うけど、その実、「五輪貴族だった」という報道もあって、「いままでさんざん甘い汁を吸ってきたくせに」と庶民の多くは思ってる。
森さんはじめ、高齢のトップの不幸は、コロナ禍は長年の経験と知恵が生かされない、前代未聞の災害ということ。もちろん、若い有能な人がトップに立っても変わりがないかもしれないよ。けど、「じゃあ、なんで高い手当をもらってそこにいるの? 何、エラそうなこと言っているの?」というような冷たい目になるんだって。そんな空気の中、失言は1ミリも許されなかったんだよね。
それにしても、コロナ禍で開催が危ぶまれているのに、運営組織がこんなに頼りなくて、東京五輪ってホントに実現できるのかしら……。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2021年3月4日号