記者会見を行う自民党の二階俊博幹事長(左)(時事通信フォト)

記者会見を行う自民党の二階俊博幹事長(左)(時事通信フォト)

 そんな「夢」に、間も無く手が届きそうだった時、テレビから聞こえてきたのは、二階幹事長の先の発言だった。

「コロナでオリンピックが中止になるんじゃないかと気が気でなかったところに、森さんの失言。そして二階さんの発言ですよ。私もかつて、代わりならいくらでもいるからさっさと辞めろ、と上司からパワハラを言われ続けておかしくなったんです。会社のために仕事をしたいという気持ちは強かったんですが。ボランティアが、結果的に二階さんのような人たちの為になってしまうと考えた時、吐き気がしてきたんです」(宮崎さん)

 嫌な記憶がフラッシュバックしていた宮崎さん、二階氏の発言はあくまでも一部の権力者たちの言葉であって、東京五輪の理念は別だと、割り切って考えることができなかった。海外の人の目には、ボランティアをする日本人が「今の日本」を肯定しているかのように映るのではないか、そんな疑いが浮上し始めたタイミングで「辞退者続出」のニュースが流れ始めた。それに触発され、すぐに事務局に連絡を入れたが、担当者からは引き止めの言葉一つなく、あっさり辞退の手続きは処理された。

「全身の力が抜けるような感じ、昔の自分に戻ってしまいそうな……。目標がなくなり、今まで通り仕事をするモチベーションが出ません」(宮崎さん)

 宮崎さんは、五輪に過度な期待を寄せていたようにも見える。しかし、東京五輪は多くの人がぼんやりと抱く理想の実現を引き受けることで盛り上げられてきた側面がある。それを、実態がないのだから期待するなと権力側から切り捨てられてしまったら、五輪への感情もマイナスになりかねない。「五輪のために、世界のために」と抱いてきた夢は、呆気なく裏切られてしまった格好だ。

 また、森氏と二階氏は共に与党・自民党の重鎮であり、保守派閥の最重要人物でもある。今回の騒動を受け、ネット上でも保守派の言論人を中心に、二人を擁護する言説が発信されている。一方、保守派であっても二人の発言は容認できないというのは、千葉県の総合病院に勤務する医療関係者の原明里さん(仮名・30代)。彼女もまた、東京五輪のボランティアに志願していたが、つい先日「辞退」を決めた。

「田舎育ちのためか、昔から保守的な考え方に共感を覚えていました。女性は話が長いという森さんの発言も、なんとなくわかるし、メディアは『切り取り』をしているように思います。それでも、対外的に日本を貶めるような表現を、あの立場で仰るのはどうなのかと違和感しかありません」(原さん)

 そしてトドメを刺したのが、やはり二階氏の発言だったと話す。

「コロナ禍以降、医療従事者を応援しようといいながら、今の政府は長い間、何もやってくれませんでした。私の病院にもコロナ患者がいて、今年の初め頃まで、不眠不休で働いたこともありました。同僚は何人も辞めましたが、院長は『やめるなら辞めろ』『(この病院で)仕事をしたいという人はたくさんいる』と強気で、数万円の手当をくれただけ。会社も政府も一緒なんだ、国全体がそうではないのか、そう考えた時、ボランティアに参加することが情けなくなってきたんです。あの人たちは保守派と言っても、自分と身の回りを守りたいだけ。そのために弱い者から搾取しているだけじゃないかと」(原さん)

 大会組織委員会や東京都によれば、辞退者は森・二階発言以降急増しており、1000人を超えるのも時間の問題だという。そして、森氏の後任に五輪相の橋本聖子氏が着任したが、周囲からの圧力に耐えられず、女性を据えればよいだろうと考えた結論にしか見えないのは、筆者だけではないだろう。辞退したボランティアに「戻ってきて欲しい」という旨の発言もあったが、それは虫が良すぎる、というもの。

 東京五輪ボランティアにはホテルも交通費も用意されず、自分で都合をつけるしかない。決してよいとはいえない条件のもと、かねてより「ブラックボランティア」と指摘されてきたにも関わらず、それでも「五輪を成功させたい」と協力を惜しまなかった人たちでさえ、辞退しているという現実。女性、若者、労働者にとって「生きづらい国だ」と宣伝し続けていることに、彼らはいつ気がつくのだろうか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
2週連続優勝を果たした 竹田麗央(時事通信フォト)
女子ゴルフ 初Vから連続優勝の竹田麗央(21) ダイヤモンド世代でも突出した“飛ぶのに曲がらない力”
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン