国内

福井多重介護殺人事件 理想の妻が義父母と夫に手をかけるまで

現場となった福井県敦賀市の民家

現場となった福井県敦賀市の民家

 家族3人に手をかけた多重介護殺人事件に、懲役18年の判決が言い渡された。公判で被告自ら口にした後悔と本音、取材を進める上で明らかになった“殺意”を生んだ家族の会話──。他人事ではない、高齢化社会の問題点が浮き彫りになった。

 あたりが静寂に包まれた深夜0時。瓦葺き屋根の立派な日本家屋の1階に、タオルを手にした女がたたずんでいた。

「私も後で逝くからね。ごめんね」

 女は横になっていた義母(当時95才)にそう声をかけると、タオルを義母の首に巻いた。義母は女の目を見つめ、抵抗することはない。隣で寝ていた目が見えにくい義父(当時93才)が、気配を察して「どうした?」と声をかける。女は「なんでもない」と答えながらタオルに力を込めた。ぐったりした義母の様子を確認すると、女はタオルを義父の首に。そのまま一気に絞めた。

 女はタオルを手にしたまま、ゆっくりと2階へ向かう。そこには、長年連れ添った夫(当時70才)が寝息を立てている。脳梗塞で体が思うように動かない夫にも、「ごめんね」と言いながらタオルを首にかけた。夫は「なにするんや」と抵抗する。「明日、薬をのんで一緒に死のう」となだめたが、女は「私はこのまま死にます」と力を緩めず首を絞めて殺害した。

「成仏してほしい」

 女は3人の亡骸に浴衣をかけ、数珠をつけて手を合わせた。その後、自らも睡眠薬を服用し、包丁で腹や手を刺すなどして自殺を図る。だが死にきれなかった。女は娘に電話し、異変を察知してかけつけた娘が110番通報。事件が発覚した──。

 2019年11月、福井県敦賀市の民家で殺人事件が発生した。介護をしている義父母と夫を殺害したとして、妻である岸本政子被告(72才)が逮捕された。静かな村で起こった殺人事件に、当時、地元では悲しみと同じくらい驚きの声も上がった。というのも、政子被告は「家族思いで本当にええ人」と村人の誰もが口をそろえるほど、評判の妻だったからだ。嫁姑関係も良好で、殺害された義母の志のぶさんも、日頃から周囲にこう話していたという。

「私らの面倒をよう見てくれて、ええ嫁さんに来てもろて感謝しとる。村一番の嫁や」

 近隣住民が羨む理想の妻だった彼女は、なぜ義父母と夫を殺害するに至ったのか。

「眠ったら介護できなくなる」

 政子被告は、いつも身なりを整え、丁寧な言葉遣いで穏やかな性格だったという。彼女が大阪から岸本家に嫁いできたのは、半世紀前。岸本家は、一族で建設会社を経営し、地元でもよく知られた名家だ。自宅のほど近くに本社を構え、義父である芳雄さんが会長を、政子被告の夫で長男の太喜雄さんが社長を務め、政子被告も経理や事務を担当して会社を支えてきた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平選手と妻・真美子さん
《チョビ髭の大谷翔平がハワイに》真美子さんの誕生日に訪れた「リゾートエリア」…不動産ブローカーのインスタにアップされた「短パン・サンダル姿」
NEWSポストセブン
石原さとみ(プロフィール写真)
《ベビーカーを押す幸せシーンも》石原さとみのエリート夫が“1200億円MBO”ビジネス…外資系金融で上位1%に上り詰めた“華麗なる経歴”「年収は億超えか」
NEWSポストセブン
神田沙也加さんはその短い生涯の幕を閉じた
《このタイミングで…》神田沙也加さん命日の直前に元恋人俳優がSNSで“ホストデビュー”を報告、松田聖子は「12月18日」を偲ぶ日に
NEWSポストセブン
高羽悟さんが向き合った「殺された妻の血痕の拭き取り」とは
「なんで自分が…」名古屋主婦殺人事件の遺族が「殺された妻の血痕」を拭き取り続けた年末年始の4日間…警察から「清掃業者も紹介してもらえず」の事情
(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
熱を帯びる「愛子天皇待望論」、オンライン署名は24才のお誕生日を節目に急増 過去に「愛子天皇は否定していない」と発言している高市早苗首相はどう動くのか 
女性セブン
「台湾有事」よりも先に「尖閣有事」が起きる可能性も(習近平氏/時事通信フォト)
《台湾有事より切迫》日中緊迫のなかで見逃せない「尖閣諸島」情勢 中国が台湾への軍事侵攻を考えるのであれば、「まず尖閣、そして南西諸島を制圧」の事態も視野
週刊ポスト
盟友・市川猿之助(左)へ三谷幸喜氏からのエールか(時事通信フォト)
三谷幸喜氏から盟友・市川猿之助へのエールか 新作「三谷かぶき」の最後に猿之助が好きな曲『POP STAR』で出演者が踊った意味を深読みする
週刊ポスト
ハワイ別荘の裁判が長期化している(Instagram/時事通信フォト)
《大谷翔平のハワイ高級リゾート裁判が長期化》次回審理は来年2月のキャンプ中…原告側の要求が認められれば「ファミリーや家族との関係を暴露される」可能性も
NEWSポストセブン
今年6月に行われたソウル中心部でのデモの様子(共同通信社)
《韓国・過激なプラカードで反中》「習近平アウト」「中国共産党を拒否せよ!」20〜30代の「愛国青年」が集結する“China Out!デモ”の実態
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《自宅でしっぽりオフシーズン》大谷翔平と真美子さんが愛する“ケータリング寿司” 世界的シェフに見出す理想の夫婦像
NEWSポストセブン
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(時事通信フォト)
《潤滑ジェルや避妊具が押収されて…》バリ島で現地警察に拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26) 撮影スタジオでは19歳の若者らも一緒だった
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
NEWSポストセブン