国内

女性の割合1%に満たない左官職人 女性の進出で男性の労働環境改善

キャリア16年の左官職人、福吉奈津子さん(写真/本人提供)

キャリア16年の左官職人、福吉奈津子さん(写真/本人提供)

 女性の社会進出がどれだけ叫ばれても、依然日本は男社会。とりわけ圧倒的に男性が多いのが職人の世界だが、一方で女性のキャリア形成を支援している会社がある。東京都文京区にある原田左官工業所は、バブル真っただ中で人出不足だった1980年代後半以降、女性職人を積極的に採用してきた。

 現在、左官職人は全国に7万人弱いるが、女性は1%に満たないとされる。しかし原田左官で働く左官40名のうち女性は12名で、その比率は30%にもなる。原田左官社長の原田宗亮さんは、女性職人には独特の強みがあると話す。

「たとえば壁の材料にアイシャドーや口紅を混ぜて色遣いを変えたり、あえて壁に凹凸をつくって華やかにしたりするのは、女性ならではの発想だと感じます。そうしたアイディアが加わったことで、左官の仕事の幅は格段に広がりました」

 募集を始めて間もない頃は、「原田左官レディース」として、女性だけのチームで作業を担当していた。

「最初は男性ばかりの職場に女性が来ることに、男性左官の抵抗が強かったんです。『若い女性をどう扱っていいかわからない』が正直な男性の意見だったので、あえて男女を分け、女性だけで働くかたちにしました。しかし段々と慣れてくると女性が社内にいることや、一緒に働くことが男性左官としても当たり前になって、わざわざチームを分ける必要がなくなった。このため20年ほど前に『原田左官レディース』は消滅しました」(原田さん)

 きつい、汚い、危険の「3K」と称され、見習い中は道具すら持たせてもらえない建設業界において、原田左官は「4年間で一人前の職人になれる」とのキャッチフレーズを掲げて、合理的な育成システムで職人を増やす。19才で入社し、16年のキャリアを持つ左官職人の福吉奈津子さん(35才)が語る。

「とにかく手に職をつけたくて、ここに入社する前は社員がほとんど男性の小さな造園会社で働いていました。だけど『女と働くのはめんどくせえな』という雰囲気があって、居心地が悪かった。半年で辞表を出しました。ネットで女性でも手に職をつけられる建設業の会社を検索したら、当時は原田左官のほかにほとんど求人がありませんでした。

 実際に入社すると、ほかにも女性の職人がいたし、何より『女性は特別』という感じがまったくしなかった。それに個人宅は妻が決定権を持つことが多く、女性同士の方が会話のキャッチボールをしやすい。左官の仕事は速さや力も大事ですが、仕上がりのきれいさも大切で、女性だから不利だということはあまりありません」

 男女共同参画が唱えられて久しいが、森喜朗・元首相(83才)の「女性の多い理事会は時間がかかる」という趣旨の発言や、女子受験者を不利に扱った東京医大の入試の例があるように、いまもなお職場における女性差別が続く。女性を積極的に受け入れ、キャリア形成を促すこうした問題とは対極にあるような職場であっても悩みはつきない。

関連記事

トピックス

ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン