「大人は金が絡みますからね……信じられます? 教祖、信者から金借りるんです。額はともかく、普通ありえませんよね」
教祖となったボスママは信者ママから金を徴収しているようだ。ただし大金ではなく、千円、二千円を「ちょっと貸して」といった具合に。
「シンママで厳しいのはわかりますけど、これは園でも問題になったんです」
保護者との関係が密な園のようで、そのボスママの「プチ教団」は何度か園から問題視されたようだ。しかし事あるごとに教祖は反発、他のママの陰謀だとわめきたて、信者にもそれを吹き込んだという。その騒動は父兄として同席した橋本さんも目撃している。陰謀なんて、そんな戯言、信じるものだろうか。
「信じてるみたいですね。ママさんも疑うどころか2人で競い合ってます。教祖は信者ママさんの家庭にアドバイスまでしているようです」
忠誠心を競わせるのは教祖の常套手段、そして教祖の言葉は絶対だ。それにしても、シンママである教祖はともかく、信者ママさん2人には夫がいるという。知らぬ存ぜぬなのだろうか。
「でしょうね。妻いわく、旦那が単身赴任とか、家庭が冷え切ってるとか」
そういう人だから引っかかるとは限らないが、自信たっぷりの身近な教祖は心の隙間にスッと入ってきたのだろう。頼れそうな先輩ママさんから怖いボスママ、そして絶対的な教祖に変貌を遂げた彼女を前に、ママさん2人は信者として支配される身となった。
教祖は必ず「敵」をつくり、信者に教え込んで孤立させる
「この辺だって園はなかなか入れません。だから転園なんてまず無理です。第一、友達と離れたくないと子どもが反対するし」
それはそうだろう、埼玉県の待機児童数は2年連続減少傾向とはいえ解消したわけではない。いまだに県全体で1000人超の待機児童を抱え、県庁所在地のさいたま市に至っては、2020年4月1日時点で待機児童387人と関東エリアでワースト1位だ。
「だから子どもが人質みたいなもんです。その教祖をみんな嫌ってますけど、何をされるかわからないから近づきません。ある意味、ママさんたちもかわいそうです」
教祖と信者2人のママさん教団はこうして野放しとなる。孤立した彼女らは教祖から「敵」の存在を吹き込まれ、それを信じてさらに孤立、誰からの指摘も介入もないまま支配されているということか。
「そうです。必ず敵を作るんですよね、ああいった人は。で、敵と教えられて孤立して、どんどん洗脳される、怖いですよ」
そう聞くと確かに怖い。先に筆者もそういった事例を知っていると書いたが、その40代のベテラン女性編集者は契約社員の新人女性(20代)を奴隷のように扱っていた。地方から出てきた新人は彼女のアシスタント的な立場だったが仕事に没頭、崇拝し、連日の徹夜に1日15時間労働で日々の私用までつきあわされ、公私ともに支配されていた。先輩後輩の関係とかやりがい搾取とかのレベルではなく、完全に奴隷だった。まさに一人教祖に一人信者。会社側も注意、他の部員が諌めても新人は聞く耳を持たず、洗脳は続き、ついには病んで契約更新されず雇い止めとなった。みるみるやせ細り、目がイッた状態の新人を見るに見かねて救おうとした別の女性編集者もいたが、「○○さん(ベテラン女性編集者の名前)ばかり必死でみんな働いていない、あなたも!」と吹き込まれたであろう会社の悪口そのままに孤立、手に負えなかった。