誰かのすべてを支配するというのは異常な出来事のはずだが、それは決して珍しいことではなく、どんな場所にも「プチ教祖」は存在し、ターゲットを探している。そして搾取するだけ搾取して、いらなくなればボロ雑巾のように捨てる。契約更新しないと判断した一人が、まさにそのベテラン女性編集者だったから恐ろしい。もちろん、売れっ子の女性漫画家を抱えた彼女を会社が切れるわけもなかった。その女性漫画家すら彼女の信者だった。

「その話はわかりますけど会社も悪いですね。でもママ友は仕事みたいに利益絡みませんから、余計やっかいなんですよ」

“ママ”という相対的な評価の難しい立場は同調圧力を引き起こしやすいのだろうか。限られた世界だからこそ、支配の度合いは強いのかもしれない。そうして日常生活にまで入り込まれて搾取される。ただのママ友なのに主従関係と搾取、そんな異常な行為を平気でやってのけるモンスターが普通の顔して近づいてくる。実際、2002年に発覚した北九州監禁殺人事件で犯人は平凡な一家を支配して、その家だけの教祖となった。2012年に発覚した尼崎連続変死事件などは複数の家庭を支配、教祖として君臨した。そんな平成の大事件でなくとも、ごく平凡な日常で、彼らのようなモンスターが意図的であれ、恣意的であれ、ターゲットを探している。仲良くなったばかりの「いい人」が「あなたのプチ教祖」に変貌する。捕食されたが最後、逃げ場はない。

「卒園しても小学校は同じのことが多いですからね、ママ友の主従関係は延々続くんです。奴隷のように使われて、金まで取られて。でも警察呼ぶほどじゃない。こんなヤバい人間関係恐ろしいですよ」

 橋本さんの話を聞いてようやくその怖さがわかった気がする。一度「プチ教祖」に洗脳されたら、支配されたら逃れられない。それは山田詠美の小説『蝶々の纏足』のように美しくもない。洗脳と支配は平凡な日常の、平凡な人間関係、最初はただ近づいてきただけだったはずの平凡な一般人(あるいは自覚なきモンスター)によってもたらされる。手法はこうだ。まず初対面から「ラブ・ボミング」(あるいはラブ・シャワー)と呼ばれる溢れんばかりの「好意の爆弾」で偽りの愛を与えて承認欲求を満たす。そして共通の「敵」を、これまた偽りの「驚異」で一体感を持たせる(グランファルーン・テクニック)。そうして「理解者と思わせる」「嘘と思われない嘘で驚かす」「嫉妬を煽る」「囲い込む」を繰り返す。孤立してしまえばしめたもの、もはや他人の言葉など「敵」の「驚異」だし、真実は自分”なんか”に好意を浴びせてくれる教祖だけ。これで信者の出来上がりである。日常に満たされている大半の人にはピンとこないが、満たされていない人の一部はこうして心の隙につけこまれてしまう。まして困ったことに、支配する気がないのに支配者になれるモンスターのような一般人が存在する。これが本当にやっかいで、教祖サマ本人もちょっとした邪気、下手をすると自覚がない。「プチ教祖」は自覚なき支配者だからこそ恐ろしい。

 世の中には本当に危険な一般人というのが存在する。出会うきっかけは会社か、学校か、ご近所さんか ―― 特別なことではない。いつ自分が支配されるか、洗脳されるかわからない。誰しも信者として搾取され、巷の「プチ教祖」に人生を台無しにされる可能性がある。カルトは日常に存在する。北九州も、尼崎も、今回の福岡も支配者はその辺の一般人だ。

 解決策も見当たらず、筆者も橋本さんもそれから先の話はできなかった。本当に恐ろしく、そして難しい問題だが、長引くコロナ禍でコミュニケーションの機会が減り、ごく限られた人間関係の中で暮らさざるを得ない状況が続いている。今後さらに増えるかもしれない。

 信者2人のプチ教祖。笑うかもしれないが、この関係は本当に危険で、恐ろしい。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2017年、全国俳誌協会賞。2018年、新俳句人連盟賞選外佳作、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞。寄稿『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、著書『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)など。

関連記事

トピックス

全米野球記者協会ニューヨーク支部主催のアワードディナーに出席した大谷翔平と、妻・真美子さん(左/時事通信フォト、右/提供:soya0801_mlb)
《真美子さんが座る椅子の背もたれに腕を回し…》大谷翔平が信頼して妻を託す“日系通訳”の素性 “VIPルーム観戦にも同席”“距離が近い”
NEWSポストセブン
司法省がアンドリュー元王子の写真を公開した(写真/Getty Images)
《白シャツ女性に覆いかぶさるように…》エプスタイン・ファイルで新公開されたアンドリュー元王子とみられる人物の“近すぎる距離感の写真” 女性の体を触るカットも
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
【2・8総選挙「大阪1〜10区」の最新情勢】維新離党の前職が出た2区、維新前職vs自民元職vs野党候補の5区で「公明党票」はどう動くか
NEWSポストセブン
なぜ実の姉を自宅で監禁できたのか──
《“お前の足を切って渡すから足を出せ”50代姉を監禁・暴行》「インターホンを押しても出ない」「高級外車が2台」市川陽崇・奈美容疑者夫妻 “恐怖の二世帯住宅”への近隣証言
NEWSポストセブン
東京拘置所(時事通信フォト)
〈今年も一年、生きのびることができました〉前橋スナック銃乱射・小日向将人死刑囚が見せていた最後の姿「顔が腫れぼったく、精神も肉体もボロボロ」《死刑確定後16年で獄中死》
NEWSポストセブン
間違いだらけの議事録は「AIのせい」(写真提供/イメージマート)
《何でもAIに頼る人たち》会社員女性が告白「ケンカの後、彼から送られてきた”彼女の方が悪い”とAIが回答したスクショ」ほどなく破局
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
国際ジャーナリスト・落合信彦氏が予見していた「アメリカが世界の警察官をやめる」「プーチン大統領暴走」の時代 世界の“悪夢”をここまで見通していた
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト、2025年10月15日)
《頬がこけているようにも見える》高市早苗首相、働きぶりに心配の声「“休むのは甘え”のような感覚が拭えないのでは」【「働いて働いて」のルーツは元警察官の母親】 
NEWSポストセブン
ジェンダーレスモデルの井手上漠(23)
井手上漠(23)が港区・六本木のラウンジ店に出勤して「役作り」の現在…事務所が明かしたプロ意識と切り開く新境地
NEWSポストセブン
元日に結婚を発表した女優の長澤まさみ(時事通信フォト)
長澤まさみ「カナダ同伴」を決断させた「大親友女優」の存在…『SHOGUN』監督夫との新婚生活は“最高の環境”
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
【訃報】国際ジャーナリスト・落合信彦氏が死去、84歳 独自の視点で国際政治・諜報の世界を活写 
NEWSポストセブン
薬物で急死した中国人インフルエンサー紅紅(左)と交際相手の林子晨容疑者(右)(インスタグラムより)
「口に靴下を詰め、カーテンで手を縛り付けて…」「意識不明の姿をハイ状態で撮影」中国人美女インフルエンサー(26)が薬物で急死、交際相手の男の“謎めいた行動”
NEWSポストセブン