芳根といえば、現在放送中のドラマ『君と世界が終わる日に』(日本テレビ系)にも登場して注目を集めている。彼女が演じた人物は、ゾンビが溢れ返る世界で主人公たちに取り入り、裏切り、最終的にはこれらの真意を明かし、物語の世界から姿を消した。芳根の出番はたった数話だけだったものの、一人の女性の心の機微を大胆かつ繊細に演じ、完全に場をさらっていたように思う。
そもそも芳根は、この手のキャラクターを演じるのが抜群に上手い。何らかの理由でドン底にある人物や、感情のスイッチの切り替えを必要とする役どころだ。特に印象に残っているのが、土屋太鳳(26才)とダブル主演を務めた映画『累-かさね-』(2018年)。同作では、容姿端麗で自信に満ち溢れた若手女優役を土屋が演じ、自身の容姿にコンプレックスを抱えた女性を芳根が演じた。劇中ではこの2人の女性が“入れ替わる”ことになる。世の中の全てに悲観的な言動から、高飛車な態度までをも芳根は演じ分け、大きなインパクトを残した。
『ファーストラヴ』での環菜も、芳根が得意とする役どころだ。だが、今作での芳根の演技はこれまでよりさらにパワーアップしており、“好演”などという言葉には収まらないほど強烈な衝撃を与えている。殺人犯として収監された環菜は、サイコパスのように扱われ、常軌を逸した振る舞いを繰り返す。表情と言動の不一致、完全に光を失った目、環菜というキャラクターの感情の起伏を自在に操り“激情”を表現するさまは、鑑賞後「芳根自身の実生活にも支障を来すのでは?」と思わず考え込んでしまったほど。とにかく彼女の一挙一動に圧倒されっぱなしの2時間だった。
特に芳根は、泣きの演技に定評がある。共演者や監督も、芳根の泣きの演技について「涙の魔術師」と語っているほどだ。口コミにも、「泣きの芝居にさらに磨きがかかっている」「涙腺崩壊とはまさにこのこと」など、芳根の涙に言及する声が多く見られた。涙は流そうと思って簡単に流せるものではない。涙が流れるに至るまでの心的な理由を内面で作らなければならない。その精神状態を想像するだけで心配になるが、芳根の凄まじさは、まさにここにあるのではないだろうか。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。