一方でワクチンパスポートに否定的な見解もある。最も大きな懸念は「差別」の温床となることだ。
「パスポートの導入により、ワクチンを接種したくない人の権利と自由が制限される恐れがあります。また妊婦や持病を持つ高齢者、重度のアレルギー体質のかたなどはワクチン接種をしたくてもすることができず、その結果として不当な不利益を被る可能性があります。
さらに、裕福な国がワクチンを購入できる一方で、貧しい国にはワクチンが行き届かない恐れがある。国の貧富の差によって、人々に“パスポート格差”が生じる可能性があるのです」(一石さん)
そもそも、ワクチンを打ちたくない人が一定数いる。実際、時事通信社が2月に行った国内の世論調査では、「接種を希望する」70.1%に対し、「希望しない」17.5%、「わからない」12.4%だった。
日本ではワクチンの接種は義務ではなく、個人の裁量に委ねられるが、パスポートが導入されると、事実上の「強制接種」になりかねない。ワクチンを打ちたくない人が差別されることがないよう、慎重な議論が求められる。今後のカギを握るのは、国民のニーズだ。
「ワクチンパスポートを持たない人への差別が心配される一方、ワクチンパスポートを欲する国民のニーズが高まれば、国は対応を迫られます。また世界各国がパスポートを導入するなかで日本の取り組みが遅れると、日本だけ経済や社会活動の正常化が遅くなるリスクが生じます。
まずは日本でも、パスポート発行の論点整理を始めるべきでしょう。導入する場合の具体的な方法やしくみについても、早急に議論を始めるべきです」(一石さん)
ワクチン接種開始のタイミングで議論を開始したい。
※女性セブン2021年3月25日号