ライフ

16歳でのがん宣告を克服した医師が「自分の病気の話を患者さんにしない」理由

東京都立小児総合医療センター血液・腫瘍科の松井基浩医師

東京都立小児総合医療センター血液・腫瘍科の松井基浩医師

 高校1年生、まだ16歳という若さで血液のがん・悪性リンパ腫を発症。入院、闘病生活のなか「医師になって子どもたちを助けたい」と復学後も通院治療を続けながら、医科大学へ進学。かつて自分を助けてくれた命の恩人でもある主治医と共に働く医師がいる。ライターの服部直美氏が、一般社団法人AYAがんの医療と支援のあり方研究会(AYA研、LINE IDは@ayaken)発起人の一人である松井基浩医師に、医師を志したきっかけと、若年性がん患者が持つ悩みについて聞いた。

 * * *
 東京都立小児総合医療センター、血液・腫瘍科の医師、松井基浩さん34歳。スポーツ好きで健康そのものだった松井さんは、高校1年生の秋、風邪のような咳が続き、食欲が落ちていったことを不思議に思い、地元の大きな病院を受診する。いまでも、あのとき聞こえた母の声音が忘れられない。

「がんセンターを紹介してください」診察室から聞こえた母親の声に不安がよぎった。翌日、紹介された国立がんセンターでの詳しい検査で、血液細胞に由来するがんの1つで、白血球の1種であるリンパ球ががん化した病気「悪性リンパ腫」のステージIIIであることを告げられる。

 毎日が楽しいはずの思春期の少年にとって、はじめて死を意識した瞬間だった。「どうして自分が……」一晩中泣き、言葉に表せないほどの押し寄せる不安、強い苛立ち、憤り、その思いのすべてを両親に強い言葉で投げつけるしかなかった。

「特に母親には、すごく当たり散らしました。緊急入院したから学校へも行けなくなって。当時、がんは死と直結しているイメージしかなくて……死ぬのか、そんなことばかり考えていました」

 病室ではカーテンも心も閉ざし、落ち込むだけの日々。同級生は学校へ行って友だちと楽しく遊んでと日常を変わりなく過ごしているのに、自分だけ病院にいる。家族以外に胸の内をぶつけることもできず、十代の大切な時間を突然奪われたショックから誰とも口をきかなくなった。

 心を閉ざし、自分の殻に閉じこもっていた松井さん。だが、小児がん病棟にいる自分よりもっと小さな子どもたちは、毎日、底抜けに明るく、そして自分の病気をきちんと理解し、治療を受けていた。

「仲良くなった小学校5年生の男の子は、治療で足を切断しなければいけなかったんです。でも、そんな現実をしっかり受け止めていた。自分が恥ずかしくなりました」

関連キーワード

関連記事

トピックス

解散を発表したTOKIO(HPより)
「TOKIOを舐めるんじゃない!」電撃解散きっかけの国分太一が「どうしても許せなかった」プロとしての“プライド” ミスしたスタッフにもフォロー
NEWSポストセブン
教員ら10名ほどが集まって結成された”盗撮愛好家グループ”とは──(写真左:時事通信フォト)
〈機会があってうらやましいです〉教師約10人参加の“児童盗撮愛好家グループ”の“鬼畜なやりとり”、教育委員会は「(容疑者は)普通の先生」「こういった類いの不祥事は事前に認知が難しい」
NEWSポストセブン
警視庁を出る鈴木善貴容疑者=23日午前9時54分(右・Instagramより)
「はいオワター まじオワター」「給料全滅」 フジテレビ鈴木容疑者オンカジ賭博で逮捕、SNSで1000万円超の“借金地獄”を吐露《阿鼻叫喚の“裏アカ”投稿内容》
NEWSポストセブン
大手芸能事務所の「研音」に移籍した宮野真守
《異例の”VIP待遇”》「マネージャー3名体制」「専用の送迎車」期待を背負い好スタート、新天地の宮野真守は“イケボ売り”から“ビジュアル推し”にシフトか
NEWSポストセブン
「最近、嬉しかったのが女性のファンの方が増えたことです」
渡邊渚さんが明かす初写真集『水平線』海外ロケの舞台裏「タイトルはこれからの未来への希望を込めてつけました」
NEWSポストセブン
4月12日の夜・広島県府中町の水分峡森林公園で殺害された里見誠さん(Xより)
《未成年強盗殺人》殺害された “ポルシェ愛好家の52歳エリート証券マン”と“出頭した18歳女”の接点とは「(事件)当日まで都内にいた」「“重要な約束”があったとしか思えない」
NEWSポストセブン
「父としての自覚」が芽生え始めた小室さん
「よろしかったらお名刺を…!」“1億円新居”ローン返済中の小室圭さん、晩餐会で精力的に振る舞った理由【眞子さんに見せるパパの背中】
NEWSポストセブン
多忙なスケジュールのブラジル公式訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《体育会系の佳子さま》体調優れず予定取り止めも…ブラジル過酷日程を完遂した体力づくり「小中高とフィギュアスケート」「赤坂御用地でジョギング」
NEWSポストセブン
麻薬密売容疑でマグダレナ・サドロ被告(30)が逮捕された(「ラブ・アイランド」HPより)
ドバイ拠点・麻薬カルテルの美しすぎるブレイン“バービー”に有罪判決、総額103億円のコカイン密売事件「マトリックス作戦」の攻防《英国史上最大の麻薬事件》
NEWSポストセブン
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン
無期限の活動休止を発表した国分太一(50)。地元でもショックの声が──
《地元にも波紋》「デビュー前はそこの公園で不良仲間とよくだべってたよ」国分太一の知られざる “ヤンチャなTOKIO前夜” 同級生も落胆「アイツだけは不祥事起こさないと…」 【無期限活動停止を発表】
NEWSポストセブン
出廷した水原被告(右は妻とともに住んでいたニューポートビーチの自宅)
《水原一平がついに収監》最愛の妻・Aさんが姿を消した…「両親を亡くし、家族は一平さんだけ」刑務所行きの夫を待ち受ける「囚人同士の性的嫌がらせ」
NEWSポストセブン