広告代理店はイベントの自粛やそれに伴う広告の減少でどこも厳しい状況だ。最大手の電通すら2020年の一年間の最終損益は1595億円という巨額の赤字。買収など他の要因もあるとはいえ広告出稿そのものが現実に減っている現状、厳しいことには確かだ。それでも、罹患者を減らすべき、収束まで我慢すべきと言われている側である一般国民は「だから納得しろ」と言われても多くは納得できないだろう。この日韓戦に限らずオリンピックの強行や多人数かつ灰色の接待と会食を繰り返し、それがバレては頭を下げる特別扱いの大臣、官僚にみな辟易しているというのに。

「まあ試合は決まったわけで、いまさらしょうがないですよ。さっき穴が開いたからって話をしましたけど、協会も赤字ですから、少しでも金になる話は決めないとってあるんでしょう、それで日韓戦、大手柄でしょう」

 コロナ禍の試合減と無観客による日本サッカー協会の2021年度予算は28億円の赤字を見込んでいる。積立金でやりくりするしかないが、そんな協会からすれば少しでも減収は防ぎたい。予約済のスタジアムに穴を開けるわけにはいかない。それがドル箱の日韓戦になったとしたら、確かに万々歳だろう。

「どっちも海外組が来れるか、国内組だけでやるのかって話ですけど、その辺は――」

 あとはよもやまのサッカー談義になったので端折らせていただいた。市橋さん(本当は昔から”くん”づけなので”さん” づけは文中とはいえ落ち着かないのだが)は国内組がどうこうと言っていたが、Jリーグもガンバ大阪は新型コロナウイルスのクラスター発生の影響で現状6試合も試合が飛んでいる。コロナ禍収まらぬ欧州組はもちろん、国内組すら長いリーグ戦を考えれば選手を出すのは嫌なはずだ。ガンバのようになったら大変なことになる。そもそも、オリンピックも含め、国は本当にコロナ禍の国民をまとめる気があるのか。飲食店の協力金にしろ、接待疑惑にしろ、即入院できる広報官にしろ、いちいち分断を煽っているようにしか思えない。

 とはいえ、日韓戦は盛り上がるだろう。筆者の願いは「選手のみなさん怪我だけは気をつけて」のただひとつしかないが ―― 。スポーツ以外のイベント、劇場関係者も今年こそはと日常の再開を願っている。それは筆者も同じだ。ただ、いま私たちは大なり小なり日常に苦しみ、自粛を強いられている。それに耐えている。感染者下げ止まりの要因は「昼間の飲食が増えている」(尾身茂会長、3月10日発言)のように1年経っても日常生活、日々の労働で致し方のないことまで、まるでコロナが収まらないのは一般国民のせいと言わんばかりの指摘を受け続けている。その正否はともかく、これまでの政府の対応と玉虫色の判断とで国民を納得させられるのか。現状はオリンピックのアリバイ作りとしか思えない。

 今年1月13日に発表されたNHKの世論調査ですら東京オリンピック・パラリンピックを「開催すべき」はわずか16%、中止や延期が80%を超える。国民はまともだ。「日韓戦だぞ、さあ燃えろ」と炎上を焚きつけられても昔ほど能天気には踊れない。コアなサッカーファンほど相手も相手なのでうんざりだろう。こういう時の民意というのは案外上等だ。

 日韓戦はドル箱かもしれないが、検疫、移動の問題はもちろん、歴史的感情から問題も多い。そんなコンテンツをこの期に及んでぶっ込んできた今回の決定、こうした繰り返しこそ「感染者下げ止まりの要因ではないか」と、あえて言わせていただく。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2017年、全国俳誌協会賞。2018年、新俳句人連盟賞選外佳作、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞。寄稿『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、著書『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)など。

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