木内さんが亡くなって1年4か月。もっとガックリくるかなと思ったが、自然と不在に慣れていったと、微笑む。
「心残りがあるとすれば、もう一度、旅をしたかったかな。彼女は69才までに69か国を旅しており、70才にはトルコへ行く計画を娘と立てていた。節目だからぼくも一緒に行こうかと話していたんです。彼女はいつもあちこち飛び回っていたから、いまでもふと、どこか旅に出かけているんじゃないかと思うときがあります」
木内さんは自著『あかるい死にかた』で、「いずれ死ぬ、誰だって。致死率100%」と綴っている。晩年は社会活動にも精力的だった木内さんの、「思い立ったら即行動」の精神には、“悔いのない死に方”への美学が潜んでいたのかもしれない。
「チベット仏教の輪廻転生のように、死を終わりと考えて悲観するのではなく、再生への旅立ちと捉えることが、残された者の救いではないでしょうか」
水野さんの言葉は、常識にとらわれがちな私たちの心に響くものだった。
【プロフィール】
水野誠一さん/1946年生まれ。『インスティテュート・オブ・マーケティング・アーキテクチュア』代表取締役。西武百貨店時代に『SEED館』『LOFT館』を手がけ、その後参議院議員、新党さきがけ政策調査会長。2020年、木内さんの随筆をまとめた『またね。』(岩波書店)、2021年『あかるい死にかた』(集英社インターナショナル)を刊行。
※女性セブン2021年4月1日号