何より感心したのは、こうした大ネタにおける宮治の“感情注入”の凄まじさだ。むしろ演劇的とさえ言えるその表現力はある意味、柳家喬太郎の手法に通じるものがある。滑稽噺における宮治の騒々しい芸風のファンは多いはずだが、僕はこの『鼠穴』を聴いて「宮治には大ネタ人情噺が似合う」と確信した。
爆笑落語とドラマティックな大ネタ。この両輪で“真打の宮治”は大きな花を咲かせるに違いない。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『21世紀落語史』(光文社新書)『落語は生きている』(ちくま文庫)など著書多数。
※週刊ポスト2021年4月2日号