丸太を抱えての厳しいトレーニングを行う
現主将の秋山章一郎の兄は、佐世保実業野球部のOBだ。秋山の兄が入学した時、すでに清水は学校を去っていたが、兄が先輩から「お前の弟はぜひ清水監督に預けた方がいい」という助言を受け、弟の秋山は大島まで車で2時間半かかる雲仙市から、大崎への入学を決めたという。
佐世保実業時代に学校への虚偽報告で下った清水の謹慎処分は、内情を知る者によれば清水ひとりがすべての責任を負う形での決着だったという。さらに話を遡れば、清峰を辞めるにいたった要因も、真剣に野球に取り組む部員をかばう一心で一般の生徒をとがめたのがきっかけだったと擁護する声があった。本人は黙して今さら語ろうとはしない。だからこそ、彼を信頼する周囲の人間たちが次々と彼の出直しを支えようと動いたということなのだろう。
そして、就任1年半後の2019年秋には長崎大会を制し、昨年は秋の長崎大会と九州大会で優勝した。わずか2年半で選抜切符を手にしたのは奇跡的な快挙に映る。ただひとり、清水を除いて。
「私自身は、ゼロから清峰の野球部を作り、5年で甲子園にたどり着いたという経験がありますから、1年目から勝つ自信だけはあったんです」
大崎高校の練習は、シートノックを見るだけでも他校との違いは明らかだ。内外野が分かれてノックを受けるのが一般的だが、大崎高校では全ポジションに、ランダムにノックを放ち、捕球した選手は、仲間の指示に即座に反応して指定された塁に投げなければならない。型にはまった練習を繰り返すのではなく、常に実戦を想定した練習を選手に課していることが伝わってくる。
「私は野球の巧い選手を作りたい。うちの守備には決まり事が多く、シチュエーションによって、内外野の動きや連携が細かく決まっている。簡単ではありませんが、私なりのマニュアルに従って鍛えていけば、高校卒業と同時に高校野球の監督ができるぐらいの知識は植え付けられていると思います。甲子園で勝つためのプロセスが自分の中ではっきりしているからこそ、今のチームに何が足りないのかは、明確に分かっているつもりです」
清水が「練習の肝」と話すのが清峰時代から行っている丸太を抱えながら行うインターバル走だ。部員が2班にわかれ、全周270メートルのグラウンドを全員が50秒以内に走らなければならない。それを計10本繰り返すが、もし脱落者が出たら1本に数えない地獄のトレーニングだ。
「なかには途中で動けなくなる選手もいます。私の課すトレーニングに単純なものはなく、すべて負荷をかけます。丸太を抱えて速く走ろうとすると、自然と体幹を使った走り方になるんですよ。効率と効果を求めた結果です。丸太にも軽いものと重いものがあるでしょ? 全員がタイムをクリアするために速く走れるヤツは重い物を持ち、遅いヤツに軽い丸太を与えますよね。口幅ったい言い方になりますが、こういうことでチームワークは培っていけると思います」
