カリスマ会長の引退で揺らぐミニカーづくりの矜恃
軽自動車制度が今日まで護られてきたのは、ひとえにスズキの鈴木修会長の影響力のたまものであった。軽自動車に不利な動きが出るたびに政財界に対して陰に陽に自ら働きかけ、制度維持に奔走してきた。
何も、軽自動車だけを聖域にしろというわけではない。軽自動車税の大幅引き上げが目論まれたとき、「トヨタさんが登録車(白ナンバー乗用車)の税額を軽に近づけるべきだと主張されるなら、私は喜んで同調させていただく」と語っていた。維持費の安いモビリティがないと生活が成り立たなくなる地域を広く抱える静岡県を根拠地とする企業のトップらしい、まさに肌身感覚の主張だ。
その鈴木修氏が、ついに今年の6月限りで40年以上務めてきたスズキの代表取締役を引退すると発表した。その引退劇の直後に軽区分廃止が出てきたのはたまたまかもしれないが、それを本気で止める人物はもういなくなる。
豊田章男・日本自動車工業会会長は昨年末、「軽は国民車」とメディアに語り、軽自動車をこれからも護る姿勢を見せていたが、それが本心なのかリップサービスなのかは未知数で、今後自ずと答えが出る。
もし軽自動車制度が有名無実化するならば、N-BOX、ルークス/eKスペース、タント、そしてスペーシアというスーパーハイトワゴンを筆頭に、メーカー各社が驚異的な創意工夫力を注ぎ込んでミニカーづくりを行う動機もなくなる。
日本独自規格で利益も薄い軽自動車などもうやる必要はないという考え方も確かにあるにはある。が、モノづくりは森羅万象。そういう精神を放棄した影響がどういう形で表れるかは未知数だ。
すさまじい商品力のぶつかり合いで生じている軽スーパーハイト戦国時代が、ろうそくが燃え尽きる前の最後の揺らめきになるか否か──。N-BOX、スペーシア、ルークス/eKスペースなどで長距離を走ってみてそれぞれの凄味を体感すると、単に見切るのはあまりに惜しいと思うばかりである。