女優の佐藤江梨子が、週刊ポストで8年ぶりに本格グラビアを解禁した。撮影したのは、鬼才・竹中直人。竹中と佐藤の2人がグラビアに合わせそれぞれの視点から書き下ろしたファンタジー「宙を見る女」をお届けする。
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●竹中直人の書き下ろしファンタジー
【壊れたのは誰?~side和夫~】
「なんだかやんなっちゃう…本当にやんなっちゃうな…」
いつもの夏子の口癖だ。
少し高めの柔らかな声は耳に心地よい。でも…
「ほんとほんとやんなっちゃう…」この声が出てくるともう大変…。夏子は「死んでやる!」と叫び、2階のベランダから飛び降りようとするのだ。お互いの距離が縮まりだした頃、夏子のそれには本当にびっくりした。私は一体何が起こったのか分からなかった。ただ「やめろ!」と後ろから夏子を羽交いじめにして床に押さえ込むしかなかった。息が荒れる。夏子の息も荒れる。私の手を払いのけ夏子はうずくまった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
私は夏子の背中をさすった。「大丈夫か?」
「はぁ…はぁ…はぁ…は ひふへほーー!きゃははははは!」 そう言って夏子は笑い声を上げた。
「???!」
「あ~すっきりした…」
「え?」
「和夫さん…ごめんなさいね。なんだかわたしおかしいの…」
「おかしい?」
「わたし 不安なのよ…」
「不安?」
「…って言うか…怖いの…」
「怖い?」
「そう…怖いのよ…」
「え?何が……」
「ねぇ…」
「え?」
「ふぅ~ イライラする…」
「え?イライラ?俺に?」
「いちいち尋ねないでよ私に!」
「え???」
私はいつも、夏子に振り回されてばかりだ。
長い付き合いだった友人の有島から久しぶりに電話があった。
有島はもうこの世にはいない。
有島は私に言う。
「別れたか??」
「…え?」
「だから…夏子とは別れたのか?」
「いや…」
「そうか…」
そのまま電話は切れた。
有島はあの世からたまに確認してくるのだ。
夏子がまだ私のそばにいるかどうかを…。
振り向くと 夏子がじっと私を見下ろしている。
私はそっと夏子を引き寄せた。