芸能

弁財亭和泉 真打昇進襲名披露の大初日は傑作『影の人事課』

傑作『影の人事課』の魅力とは?(イラスト/三遊亭兼好)

傑作『影の人事課』の魅力とは?(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、弁財亭和泉が真打昇進襲名披露興行で掛けた『影の人事課』の面白さについてお届けする。

 * * *
 落語協会の真打昇進襲名披露興行が上野鈴本演芸場3月下席からスタートした。三遊亭粋歌改め弁財亭和泉の記念すべき大初日は22日。この日、和泉が高座に掛けたのは『影の人事課』だった。

 この作品に僕が初めて出会ったのは2013年6月、春風亭一之輔の独演会に当時二ツ目の粋歌がゲスト出演した時だった。自身のOL経験を活かして創作したこの噺は一之輔ファンで埋め尽くされた満員の客席を大いに沸かせ、そのあまりの面白さに、僕は打ち上げで主催者に「粋歌さんの独演会やりましょうよ!」と持ちかけた。それで実現したのが2013年12月スタートの「粋歌の新作コレクション」である。“女性目線の新作落語”の演者として飛躍するきっかけになった名作『影の人事課』は、まさに大初日の演目に相応しい。

 主人公は、毎日深夜まで一人で残業している総務部人事課のOL、松浦。部下の山口は勤務中にお気に入りのスイーツの感想をSNSに上げるダメ男で、専務の息子なので部長に甘やかされ仕事もせず横柄な態度。部長は毎日接待に明け暮れる典型的なパワハラ/セクハラ上司。彼らの皺寄せで残業どころか休日出勤も多いが、松浦が会社に申告する残業時間は実際より圧倒的に少ない。

 そんな彼女を優しく見守る管理人のおばさん、タチバナ。その本当の顔は、この会社に潜入した“影の人事課”だった。関連商社の総務部人事課で40年、部長職を務め上げた彼女は退職時に役員待遇を断って“影の人事課”を志願。「社内の問題を解決するのが人事課。でも人事課はどこに悩みを持ち込めばいいの? 一人で問題を抱え込んでいる人事課の人たちに、私は救いの手を差し伸べたい」とタチバナは言う。

「こんな毎日イヤなんです。でも、あの人たちに何を言っても無駄」と諦めている松浦に、タチバナは「優しく言ってるからよ。ブチ切れてやりなさい」と言う。「できるはずよ。あなた、昼休みに落語聴いてるわね。残業中に啖呵を切る練習してたでしょう? 私がついてるわ。今度何かあったら『この丸太ん棒!』って言ってやりなさい」

関連キーワード

関連記事

トピックス

真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン